第七話 kawagoe 2

『ここがそうです』住職は境内の片隅にあった、寺の管理している墓地に俺を案内した。

 その中の欅の大木の根元に、慰霊碑と共に小さな墓がひっそりと佇んでいる。

小さくはあったが、手入れと掃除が行き届いているのは、あんまり仏教に縁のない俺が観てもはっきりと理解出来た。

 住職は数珠を取り出し、膝を曲げると瞑目して経文を唱える。

 俺はその後ろで、黙って頭を下げていた。

 合掌はしなかった。

 別に無神論者だからじゃない。

 ただ仕事と宗教は別だからな。

『野沢さんの御親族は?』

 俺の言葉に、

『ご両親はもうとうの昔に亡くなられました。生き残った子供のうち、光ちゃん・・・・姉さんの光子さんですが・・・・も、確かもう亡くなられたと聞いております』

『じゃ、この花は誰が?』

 俺は墓前に手向けられた花を見て訊ねた。

『光ちゃんには娘さんが一人おられましたが、その娘さんも米国に渡って、しばらく音信が途絶えておられましてな。ただ毎年晴ちゃんの命日になりますとお花と経料が届くんです。但し名前だけは書いておらんですが』

 また一つ、パズルのピースが繋がった。


『あの、今日主人は所用で出かけておりますが』

 何故か和服姿で出迎えた夫人が俺に言った。

 俺は大使館の中にある書記官の官舎を訪ねた。大使だけでなく、書記官の官舎まで敷地のなかにあるとは、流石産油国、豪勢なものである。

『いえ、書記官殿ではありません。貴方にご用があってきたのです。ハキム夫人というより、旧姓野沢節子さんと申し上げた方がよろしいでしょうか?』

 彼女の肩がぴくっと震えた。

『埼玉県の川越市のご出身ですな。貴方のお母さんは野沢光子さんですな。』

ごくりと唾を飲む音が、俺の耳にもはっきり響いてきた。

漫画の表現は決して誇張ではなかったんだな。

 俺はゆっくりと、住職から聞いた事実を話した。

 彼女は何も答えず、黙って、着物の袖から一丁の拳銃・・・・そう、紛れもない

九四式自動拳銃を取り出し、筒先をまっすぐ俺に向けた。

『脅しじゃありませんよ。ちゃんと弾丸(たま)は入っています。但し3発だけですけど』

 彼女は眉一つ動かさず、顔色一つ変えない。

 堂に入っているというか、或いは何かにとりつかれているというか・・・・

『日本って、昔に比べれば拳銃の所持が自由になったという割には、色々と五月蠅い制限があるのね』

 


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