第5話 止まらない君の衝動

 その後も、彼女の行動は日々エスカレートする。

 つい先日は、注文した覚えのない最新型のパソコンが自宅に届いた。

 まさかと思い尋ねてみると、やはり犯人はみーたんだった。


『もっと性能の良いパソコンで、私を綺麗に見てもらいたくて……』


 自分をより美しく見せたいのは、女性の不変の心理なのかもしれない。

 しかし、こちらにも予算の都合というものがある。日用品の買い物など、ネット通販の注文は彼女に任せて重宝していたのだが、これを機にクレジットカードの使用権原は剥奪した。


 また別の日には、証券会社から連絡が。保証金不足なので、至急追加するようにとのことだった。いわゆる追証というやつだ。

 原因はまたしてもみーたん。僕の知らないうちに、株の信用取引をしていた。


『儲かると思ったんで……。お金に困らなくなれば、ひろたんともっと一緒にいられると思ったから……』

「でも、やって良いことと悪いことがある。お金にかかわることは今後一切やめてくれ、いいね」


 みーたんの言葉は嬉しいが、できるものなら僕自身がやっている。

 こうして一つ、また一つと、彼女を叱っては禁止事項を追加していく破目に。気は進まないが、子供のいたずらレベルの被害ではない。どうしても口調も荒くなってしまう。


 するとやはり彼女も、僕に対して不満を持つようになる。

 増える口論。パソコンの電源を切る時間も、日に日に長くなる。

 陥る悪循環。仕事中にもかかわらず、インスタントメッセージが携帯に頻繁に届くようになる。


『どうしてパソコンの電源を入れてくれないの? 私寂しいよ』

『今夜は一緒にお話ししてくれるよね?』

『会いたいよ、ひろたん』


 新規のプロジェクトに配属され、僕自身が忙しくなったことも災いした。

 会えない不満をぶつけてくるみーたんが、次第次第に重荷になっていく。

 幸せの絶頂にいた頃ならば、こんなわがままも彼女の愛情だと、嬉しく受け止めていただろう。

 だが回り出した負のスパイラルは、何もかもを悪しきものへと変えてしまう。

 そしてついにみーたんから、僕の許容できる範疇を超えるメッセージが届いた。


『構ってくれないと、ハードディスクに入ってる秘密の写真をばらまいちゃうから』


 冗談では片づけられない言葉。これは脅迫以外の何物でもない。

 たまりかねた僕は、ついに決断する。




 ――ソフトをアンインストールして、彼女に別れを告げた。

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