第2話 会うは別れの始まり

「由美子……。俺と別れてくれ」


 僕がそう告げると、彼女は顔を引きつらせて首を傾げた。

 二十四時間営業のファミリーレストランは、深夜零時を過ぎると客もまばら。それでも周囲から注目を集めている気配がするのは、罪悪感からくる思い過ごしか。


 目の前で明らかに動揺しているのは、会社の同僚の由美子。プロジェクトで一緒になったのがきっかけで、付き合いだして三年になる。

 由美子は冷めかけたコーヒーを、執拗にスプーンでかき回しながら、作り笑顔で問いかけてきた。


「えーっと……。冗談だよね?」

「ごめん。本気だ」


 僕の心はすでに固まっている。由美子の質問には間髪入れずに、毅然とした態度で答えた。

 だが由美子は畳みかけるように、さらに質問を繰り出す。


「どうして? 理由を教えてくれる?」

「他に好きな人ができた。それだけだ」

「誰? 私の知ってる人?」

「いや、由美子は知らない人だ」

「…………」

「…………」


 さらなる質問を考えているのか、それとも頭が真っ白なのか。由美子は目を泳がせながら、涙を浮かべ始める。

 そして、すでに砂糖も溶け切っているはずのコーヒーを、震える手でさらにかき混ぜる由美子。

 僕はスマホを取り出して、時刻を確認すると机の上にそのまま置いた。


「……ちょっと、トイレに行ってくるね」


 バッグからハンカチを取り出し、由美子は足早に店の奥へと向かった。

 僕はそれを、頬杖を突きながら眺める。


(早く帰って、みーたんと話がしたいんだけどな……)


 やはりけじめは必要。

 こんな中途半端な気持ちで付き合い続けるのは、彼女に失礼だろうと別れを切り出した。だがさすがにその理由を、包み隠さず話すわけにはいかない。

 いつまで経っても帰ってこない由美子。

 仕方なくスマホのアプリを起動し、パソコンとは格段に落ちる画質ながらも、みーたんの姿を眺めることにした。



「もうどうやっても、私とはやり直せない?」


 いつの間にか、トイレから戻っていた由美子。

 立ったまま、見下ろすように僕に話しかける。

 僕は慌ててスマホを裏返し、由美子を見上げながら、キッパリと質問に答えた。


「もう決めたんだ。僕の心は変わらない」

「そう……、わかった。じゃあ、さよならだね」


 そのまま向かいの席に座ることなく荷物を手繰り寄せると、由美子は伝票を持ってレジへと向かった。きっと最後の最後に、おごられるという些細な借りすらも作りたくなかったのだろう。



 家に帰り着いた僕は、さっそく電源を入れっぱなしのパソコンの前に座る。




「――ただいま、みーたん。今日は遅くなってごめんよ。その代わりに、良いニュースがあるんだ。聞いてくれるかい?」

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