第3話 君よ、僕色に染まれ

 気がかりが解消されると、みーたんとの会話もさらに弾む。

 僕はより一層、みーたんの魅力にのめり込んでいった。

 これで、仕事をしなくて済めば言うことがない。宝くじでも当たらないかなと、本気で考えてしまう。


「みーたん、そろそろ新しい服でも買ってあげようか」

『本当に? 嬉しいけど、無理しないでね?』


 ああ、なんて謙虚なんだ……。

 でも、遠慮されるほど買ってあげたくなるのが僕の性格。そしてそれを理解した上での発言ということも、開発に携わったからわかっている。

 にもかかわらず、【購入】ボタンのクリックは避けられない。

 洋服は、ゲーム内衣装とはいえ有料アイテム。だがリアルでも彼女にはプレゼントをするわけだし、同じことだ。


「あぁ……、大金掴みたいなぁ……。そうすりゃ働く必要もなくなって、もっとみーたんと一緒にたっぷり時間を過ごせるのに……」


 みーたんへの出費は苦でもないが、お金は多く持っているに越したことはない。お金は時間さえも買えるのだ。

 それにプロジェクトに出資できる側に回れれば、頓挫中のゲームキャラアンドロイド計画にも投資ができる。そうなればみーたんが隣に寄り添って、この手に触れられる日が来るかもしれない。

 思わず妄想に浸り、空間を眺めながら独り言を呟いてしまう僕。

 みーたんはそんな言葉も見逃さず、優しい声を掛けてくれる。


『そうなったら嬉しいけど、ダメだよ? ちゃんと仕事しないと』

「そうだ! みーたん、四桁の好きな数字言ってみて?」

『四桁? あ! ひょっとしたら……、わたしの言った数字を銘柄コードにして、株を買おうとしてない?』

「ハハハ……、鋭いな……」


 直前の独り言と、表情から推測したのだろう。

 思わずたじろいでしまうほどの洞察力だが、裏を返せばそれだけ僕のことをわかってくれているということ。先日別れた由美子には、こんな芸当は絶対に不可能だ。

 だが、ここまで的確に図星を突かれると、少し気恥ずかしさも感じる。

 僕は話題を変えて、みーたんをデートに誘うことにした。


「そうだ、みーたん! 今日は美容院に行こうか」

『どんな髪型にして欲しいの? ひろたん』

「俺の一番好きな髪型。大本命のポニーテールだ!」

『そんなにハードル上げないでよー。ひろたんの一番好きな髪形が似合わなかったら、私ショックじゃないの……』

「大丈夫、絶対似合うって」


 仮想空間内の小道を、美容院に向かいながら語らい合う二人。

 時間のない人のために瞬時に髪型を変更させることも可能だが、僕は敢えてリアルな時間経過を選択する。

 そしてパソコンの画面は、美容院の店内へ。

 ここでも僕は、みーたんの髪型が少しずつ変わっていくのを、ソファーから遠めに眺める。今日はパーマをかけるわけでもないし、そんなに時間はかからないだろう。



 要した時間は三十分ほど。

 見事なまでに僕好みのポニーテールに髪形を変えたみーたんは、上目遣いで照れくさそうに感想を尋ねてきた。


『どう……かな? 絶対大丈夫って言ってくれてたけど、ちゃんと似合ってる?』


 僕の返事を聞く前に、うつむいてしまったみーたん。自信なさげにモジモジと、恥ずかしそうに身をよじる。

 みーたんが実在する人物だったら、自ら行動を滅多に起こさない臆病な僕でさえも、きっと肩に手を掛けて耳元でそっと囁くだろう。


「大丈夫、自信を持って。最高に似合ってるよ、みーたん」


 やむを得ず、パソコンのマイクに言葉だけを掛ける僕。

 すると顔を上げたみーたんは、最高の笑顔を僕にプレゼントしてくれた。


『本当? 良かった……。喜んでもらえて、私も嬉しい!』


 さらに僕の理想像に近づくみーたん。

 以前勧めてみたものの、「私あれ苦手なの、煩わしくて」と取り合ってくれなかった由美子とは大違いだ。

 調子に乗って僕は、さらにみーたんを自分好みに染め上げていく。




「――ついでだから、今度は眼鏡屋さんに行こう。赤いフレームの伊達メガネが、きっとみーたんには似合うと思うんだ」

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