大晦日の勘違い
猫野みずき
第一話 大晦日の勘違い
「あー死ぬ」
私は、先ほどから友人小夜子のこの文句を聞き続けている。
「あー死ぬ。いや、もう死ねる」
いっぺん死んで来い!とは、さすがに言えない。私は黙って、カフェでコーヒーをすすっている。
ことの発端はこういうことだ。
小夜子が、大みそかになった直後の真夜中に電話してきた。
「死ぬ!」
そう物騒な言葉をあびせかけられては、こちらも飛び起きる。とりあえずなだめて、行きつけのカフェへ呼んだ。話をじっくり聞いてやろうと思ったからだ。
内容は、こうである。
小夜子は、クリスマスカードと年賀状を間違えたらしい。つまり、かわいらしいサンタが描かれたカードに「謹賀新年」と達筆な書道二段の腕前で新年のあいさつを、年賀状にカリグラフィーで「Merry Christmas」と書いたというのだ。それも、付き合って初めての彼に。
クリスマスが終わり、はっとことの次第に気付いた小夜子が、この大みそかになった真夜中に電話して、深夜営業のカフェへやってきて、
「恥ずかしくて死ねる」
を繰り返すのだ。
彼氏いない歴ウン年の私には、迷い事か寝言か、はたまたのろけにしか聞こえない。
「あのね、そんなことで別れる男なら、どうだっていいやつよ」
「でも、でも……恥ずかしい! あー死にそう」
私は、そんなことを言いつつ死にそうにない小夜子を適当に慰めつつ、カフェの「来年こそはモテ子」という雑誌の特集をパラパラ見ていた。
次の日。つまり、元旦である。メールをチェックすると、小夜子からメールが来ていた。
「めっちゃ笑われたけど、かわいいって。今から初詣いってきまーす」
昨日までの私の付き合いはなんだったのだ。時間返せ。
リア充爆発しろ。そんな言葉が頭をよぎった。もちろん私は、一人でお正月特番を見る。
この違いは何なのか。来年こそは。
私は、ぼんやりと福袋やら初売りのチラシをチェックしていた。
(了)
大晦日の勘違い 猫野みずき @nekono-mizuki
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