うがい

安良巻祐介

 

 テーブルに置いたコップを覗き込む。

 薄青く濁ったうがい薬の底に、小さな人が膝を抱えて座り込んでいる。

 ありふれた紺色のスーツ姿のそれは、どこにでもいそうな会社員に見えるが、前へ回って顔を見ると、そこに目鼻口はなく、のっぺりとした肉色の面の上に、チーズのような複数の穴ぼこが空いているばかりで、感情というものを見て取ることができない。

 妖精なのか幽霊なのかそれとも別の何かなのか、何もわからないが、ともかくこいつのせいでここ暫くうがいができないでいるから、喉が痛くて風邪気味になったりして、とにかく迷惑な話だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うがい 安良巻祐介 @aramaki88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ