日本! 歴史物語
れなれな(水木レナ)
長者ヶ平
千年ほどの昔。
どれくらいって、そりゃあたいしたもんだっぺ。
屋敷の周りを見ればわかる。
使用人たちの住む家が立ち並び、東には馬が百頭も入る馬屋があり、南にはその馬を慣らす広い馬場があってな。
さらに北には鍛冶屋まで抱えて、農具や馬具ばかりか、武器までこさえておったと。
そんなある日、都から
長者どんは喜び、さんざんもてなした。
名誉だと思ったんだろう。
そりゃあうれしそうだった。
義家一行はな、目を輝かしてうめえもんたくさん食べなさったと。
そして次の朝、義家が長者どんに言った。
「家来千人分の食料と、雨具を用意してはくれまいか」
すまぬが、と前置きしたがこれは命令だ。
義家は内心、心配しておったと。
「困らせてしまうのではあるまいか。迷惑に思うのではないか」
しかし長者どんはそんな様子などちらりとも見せねえ。
「へえー、かしこまりやした。お待ちくだせえ」
って言って、家来千人分の食料と雨具をそろえて送り出したんだと。
えらい太っ腹だべ。
それというのも、長者どんの家には幾棟の蔵があってな、広い田畑からとれる米や作物がぱんぱんに蓄えてあったんだと。
だがら、千人分の食料くらい、なんでもながったんだ。
そんなことより、長者どんはえれえお侍さんの役に立てることがうれしかったんだべなあ。
義家は長者どんの実力に舌を巻いて、恐れすら抱いたそうな。
そして奥州へ向かって進撃したんだ。
それから九年の歳月が経ち……安倍氏を倒した義家が、またやって来た。
長者どんの喜ぶこと、この上なくてな。
前よりもたくさんたくさん、おもてなししてな。
義家はますます、懸念をつのらせた。
この長者、馬は百頭、糧食は千人前などものの数ではない。
どうやら武器まで作っているようだ。
危険極まる!
お侍さんの考えることといったら、まず戦の心配にちげえねえ。
のちのち語るが、とんでもねえ。
長者どんは、なんにも知らず、次の日義家を送り出した。
が、その晩のこと。
長者どんの家、使用人の家、馬屋に蔵に田畑!
いっせいに火の手があがり、一晩で焼けちまった。
真っ赤な炎が天まで焦がし、馬たちや使用人の悲鳴はすさまじく、消火の手もまわらねえ。
そんな不審火、義家が焼き討ちしたとしか思えねえ。
とんでもねえ勢いだったと。
お侍さんのすることといったら恐ろしかんべえ。
民草が精魂込めて、種から育て上げたもんを、根こそぎ奪ってしまう。
今でもこの土地には語り継がれてなあ。
この事件にちなんだ地名がいっぺえ残ってる。
証拠に、開墾されずに残った田んぼの真ん中には米塚があってな。
今でもそこからは、真っ黒い焼き米が見つかっている。
さあ、たくさんの遺構もある。
平成二十一年の世になって、国の史跡に指定されたって話だ。
……ほんどうのこどだっぺな。
了
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