3.Open the door (3)

 一瞬皆の注目を得たが、大多数のクラスメイトは、気を遣ったのか、気にしないのか、こちらの様子を見ることをせず、各々好きなことをやっていた。

 私は、暫くの間、黙々と鮭おにぎりを食べる。その様子をみた葉月は、見かけ上は普通に振る舞っている様に見える。次の言葉を考えているのだろうか。


「……反対、しないでよね」


 私は、改めてそんな言葉を葉月にぶつけた。自分の淀んだ思い、それを完全に理解してもらえる事は、最初から期待はしていないけれど。それでも、私の中では、邪魔をされている感覚だったから。だから、こう言わざるを得なかった。後で思えば、これは私の、悲痛な叫びだったのだろう。


「……有遠の中では、もう決まってることなの?」


 葉月が、そう問いかける。私は、無言で一つ、頷いた。


「……私としては、止めて欲しいんだけどな。 この気持ちも、分かってもらえないか。」

「いつもそんな事ばっかりじゃん。 私だって、やりたいことあるよ」


 分かってもらえない、って。まるで私が極悪非道みたいじゃないか。いつだって、押さえつけるのはこっち側なのに、その台詞を言いたいのは、こっちなのに。……都合が良い女だ、本当に。

 また、頭に血が上りそうになるのを、必死で抑えながら、できる限り冷静に聞こえるように、答える。


「反対しても、無駄だよ」


 念を押すように、そう告げた。此処まで言えば、もしかしたら諦めてくれるかもしれない、だなんて、そんな甘い予測を立てたりして。


「……分かったよ」


 葉月がそう言った、諦めたような口調だった。引き下がってくれるのかな、と思った、次の瞬間。


「私も行く」

「……へっ?」


 私は、きょとんとした表情で、葉月を見た。これは予想していなかった返答だった。


「来るの? 私と一緒に?」

「うん。 もし何かあったときは、全力で止めるから。 でも基本的には口出ししないし。 これでいいでしょ?」


 どうやら葉月にとっての妥協案ということだった。私は、困惑の表情を顔に浮かべる。


「……それでも、嫌?」

「あ、えっと……嫌、じゃないけど……」

「そう。 じゃ、決まりだね」


 葉月は、私が動揺しているのをいい事に、そのような勝手な決定を口にするのだった。

 私は、しばし俯いた状態だったが。


「……いいけど、もし」

「……ん?」


 こちらも、鋭い槍を葉月に放つ。


「もし、私の夢の邪魔をしたなら。 ……葉月、あんたのこと、一生許さないから」

「……そう」


 私の言葉に、葉月は若干悲しそうな表情を浮かべるが。


「大丈夫。 そんな事はしないから。 約束する」

「約束じゃない。 契約だよ」

「……面倒くさいな。 どっちでもいいけど、とりあえず条件は飲むから」


 改めて、そのような約束……嫌、「契約」を取り付けるのだった。

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Rainbow Tone ~少女達はちっぽけな夢を歌う~ アレックス @ALEX_music

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