7 繋がる橋と枯れない思い
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「…美味しい。」
友人に紹介されたお店で、オススメを食べた。
甘くて、でも少ししょっぱくて、しっとりしてて、飽きない味。
…こりやぁ、あの人がオススメするわけだ。
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『なぁなぁ、この店知っとる?』
「…なんて読むん?」
『カケハシ、いうんよ。サンバシの、桟って書いて、カケハシ。』
「へぇー。」
『和菓子屋さんでな、ここの餡子がめちゃくちゃ美味いんよ。』
「へぇ。」
『ちょお、聞いとる?』
「ん、聞いとる。」
『今度一緒行こなー。』
「ええで、楽しみにしとる。」
『ん。』
*
結局、一緒に来ることはなかった。
その話をした後に喧嘩別れした。
冷静に考えてみれば原因は私だ。
すぐに謝れば良かったものの、何故か意地を張っていた。
我ながら馬鹿だったなぁと思う。
そんなことを思い出しながらお茶をすする。
仕事の都合でこっちにきたからついで、と軽い気持ちで来たが、やっぱいろいろと思い出されて苦笑いが零れる。
「……これ美味しいそう。」
すみませーん、と店員さんを呼ぶ。
はーいただいまー、と返事が返ってきた。
待っている間、お品書きを改めて眺めてみる。
「……?」
お品書きの透明なファイルに少し違和感があった。
「お待たせしましたー、ご注文をどうぞー。」
「あっ、ええっとー…この桜餅1つ。」
「以上でよろしいですか?」
「はい、」
失礼します、と店員さんが去ったのを見送ってから、違和感のあるファイルを触る。
少し段差で盛りあがってる場所を行ったり来たりする。
不思議に思っていても正体は何かはわからない。
どうすれば中身見えるかなぁと考えながらお茶を飲む。
……いや待てよ、これ、普通に取れるんじゃないのか?
「…」
なんだよ、普通に取れんじゃんか。私のさっきまでの労力返せ。
取り出せたものは、カードケースだと思われるものだった。
ほら、1枚1枚ファイリングできるタイプのやつ。
中に入っているのは、隅のほうに青で四葉のクローバーが書かれたメモのようだった。
そのクローバーの形に見覚えがあった。
「……。」
おもむろに紙を引っ張り出して折り目を開く。
「これは……」
好きなあの人の文字で書かれた「ごめんね」と、ラミネートされた本物の四葉のクローバー。
それと、気配を感じて見上げた先にいたのはこれを仕組んだであろう張本人。
「…やっぱここおると思った。」
「…なんでいんの?」
「おったらあかんか。」
「あー、……いや、べつに、」
よいしょ、と私の向かい側の席に座る。
私は発見物を手に持ったまま、その様子を眺めていた。
…気まずい。
この空気のままいつまでもいる訳にもいかず、話を切り出そうと試みる。
「あ、あのー、さ、そのー、」
普段仕事をしているときには、思ってもない言葉がつらつらと、迷うことなく出てくるのに。
こんな時に限って何も出てこない。
「……ごめん。」
「……へ?」
「……ごめん。俺が悪かった。」
「……いや、そ、それはっ、」
「今考えてみて、あん時意地張っとった俺が、アホやった。」
「そっ、そりゃあ!あん時、わっ、私も悪かったんだから、お、お互い様!」
「……。」
やっと治ったと思っていた吃音じみた症状が再発したから、聞き取れなかったのかもしれない。
彼は少し驚いたように私を見つめた。
「……なによ。」
「……いや、」
堪えきれずに同時に吹き出してしまった。
ひとしきり笑ったあと、お茶に口を付ける。
「…ってか、あんたも粋なことするのね。」
「なにが??」
「これ、」
さっき取り出せたラミネートをみせる。
「……?」
「こんなの仕組むなんて普通思いつかない。」
「……それ、」
「?」
「……いや、なんでもないや。」
「……そう。」
彼は嘘をつく時に右のピアスを触る。
本当のことは知らないでいい、なんていう知らせなのかもしれない。そう思って見て見ぬふりをした。
何はともあれ彼と私のカケハシ、を作ってくれたのは事実。
改めて手に取り、心の中でありがとう、と呟いてみる。
「失礼します。」
そこへ店員さんがテーブルにやってきた。
「こちら、試作品なのですが、よかったらお召し上がりください。」
「あ、ありがとう、ございます。」
「では、失礼します。」
バツ印についた赤いアメピンが印象的な女の人だった。
『ここは桟。誰かを繋ぐ場所ですから。』
*
偶然とはよく言うものであり、
必然とはなんなのか。
カケハシが繋ぐ関係性、
どう転がるかは貴方次第。
NEXT➣
音と唄と思い出と 一颯 @eight8error
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