6 気になるあの子







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「いらっしゃいませー」



扉を開けると、いい匂いと共にやってくるお決まりのセリフ。



「あっ、また来てくださったんですね!」



ありがとうございます!と馴染みになった店員さん。


そうか、そんなに来ていたのか。







この店に来るようになったのは…確か1ヶ月前。


職場の同僚に連れられてやってきたのがきっかけだった。


なんでも、「ここでバイトしてる子がめちゃめちゃタイプ」だったらしい。



「…どの子?」



「いや、だからあの子。」



「…んん?」



「お前ほんっと人探し下手くそだなー。」



「……ほっとけ。」



「なぁ、注文、」



「しろよ。」



「えぇ〜」



「逆になんで俺がお前の気になる子を呼ばなきゃいけないんだよ。」



「お願い!」



「…今日だけな。」



「よしっ!サンキュ!」



「代わりに奢りな。」



「うっ…わかった。」



「交渉成立。あ、すみませーん、注文いいですか?」



「かしこまりましたー、少々お待ちください。」



店員が見えなくなったあと、このヘタレ同僚は言った。



「…お前、目ぇ見えてる?」



「…まぁ、メガネ無しでも車の免許取れるくらいには?」



「…じゃあ、動体視力に問題があるのか?」



「…いや、俺高校までバスケやってたし?」



「脳みその問題か…」



「なんだよお前!さっきから失礼だな!言いたいことあるなら言えよ!」



「じゃあ言うよ!俺が言ったのはお前がさっき捕まえた店員じゃねぇ!」



「…あの、ご注文は?」



「「あっ…」」



「…何食うんだよ、」



「…日替わりB。」



「じゃあ、それ2つで。」



うるさくしてすみません、そう言うと店員の人はいえ、お気になさらず、と苦笑いした。


しばらくお待ちください、そう言ってまた去っていった人を静かに見送り、俺たちは顔を見合わせる。



「…で、どの子だよ。」



「…もういいよ、お前に頼んだ俺がアホだったんだよ…」



「こんのやろ…」



そんなことを言い合っていると人の気配がした。



「あ、あのっ、」



「…はい?」



やべ、うるさくしすぎたかなと顔を強ばらせ、謝罪の体制をとる。



「さっき、気になる店員がいるって、仰ってましたよね?」



盗み聞きするつもりはなかったのですが、お二人の会話がとても面白くてつい聞いてしましました…すみません。と頭を下げる。



「あっ、いえ、こちらこそすみませんでした…それで、その…」



「あっ、そう、それで、その、頑張って貰いたいなー、なんて思って。」



「はぁ。」



「お兄さんが言った子って、あの子ですよね?」



そう言ってある子を指さす。



「あっ、まぁ、そうですけど…」



「何照れてんだよお前。」



「っるせぇ」



「っはははっ!やっぱりいいですね、お二人。」



最高のコンビだと思います。そう言ってお腹を抱えて笑う。



「はっ、そうじゃなくて!あの、よかったらこれ、差し上げますね。」



彼女はそう言って目の前に座る同僚の前に何かを置く。



「…?」



「それ、あの子の電話番号です。」



「…え?」



俺も覗き込んで見てみると、ラミネートされた紙に書かれていたのは確かに数字の羅列。


紙の形は花びらで、薄いピンク色だった。



「あの…貴方は一体どう言った…」



「まぁ、ちょっとした顔見知りでして、」



あの子、あんま恋愛とか興味無いみたいなのでよろしくお願いしますね、そう続けた。


俺たちははぁ、と間の抜けたため息しか出てこなかったがくすくすと笑うその人はなんだか不思議に見えた。



「あっ、お兄さんにはこれあげますね」



そう言って差し出した手のひらに乗っていたのはピンクの外袋の飴。



「美味しいのでよかったら食べてくださいね」



「どうも…」



「…あっ、急いでたんだった…突然すみませんでした。失礼します!」



そう言ってパタパタと駆けていなくなってしまった。



「…なぁ、俺さ、頑張ってみんわ。」



「…ん?」



「だから、あの子。絶対落として見せる。」



「お、おう…なんかよくわかんないけど頑張れよ。」



「ん。」







…結局あの子は、アイツが告白する前にやめてしまったそう。


その事を知った日はめちゃくちゃ落ち込んでたから飯食いながら愚痴聞いてやんよ、と例の店に行く。


なんでまたここで…なんて言葉は無視して引っ張って連れていく。


適当に食べ物を注文し終わり、前のめりになって指先を組む。



「…まー、でも、どっかで会えんじゃねーの?」



「…んなサラッとゆーなよぉー…」



つかさ、なんでここ来たの?悪意しかなくない?なんて言うから言ってやった。



「…お前知らなかったの?ここの店、」



ディナーメニューの方が美味いんだよ。


そう言うと、常連感が湧いてきて少し可笑しかった。



「…そーなん?」



「そ。つかそんなにわか知識であの子を落とそうだなんて100万年早いわな。」



「逆になんでお前は常連感でてんだよ」



「だからディナーの飯が美味いからよく来てんだよ。」



「どーせ好きな子でもいんだろ?」



「残念だったな。その予定は今のところない。」



でも…いつも挨拶をしてくれる人を思い浮かべる。



『またいらしてくださったんですね!ありがとうございます!』



赤いアメピンを右耳の上にバッテンにつけた、黒髪の女の人。


ふと思い出した。



「…」



「なー、話聞いてたー?」



「いや、聞いてない」



「ちょっ、おま、聞けよ!」



あそこにいるいつも話す店員の人って、いつぞやかにコイツに電話番号渡してた人…?



「…まさかね。」



「だろー?そのまさかなんだよ。」



「は?何が?」



「だから聞けって!」



なんなんだよお前ー…と呟く同僚を笑いつつ、目線の端に映ったのはたしかにあの時俺らのテーブルに話しかけた人だった。


俺は彼女から貰ったポケットに入りっぱなしだった飴の袋を触った。







この世界は案外狭いものだ。


意外な人との繋がり。


先日のあの子は今日の気になる子。


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