第3話
その道は死んだ者が黄泉まで歩かなければいけない道。その途中は何もない。何もないがその人が望む物が見られると言われている。
正英と英子は1つ望んだ物があった。
“もう一度愛する人と歩きたい”
それは偶然か必然か。死んだ時に思い出した物が同じだったのか。2人はその道で巡り合った。
ある夏の日、まだ若い2人はお見合い結婚だった。親の決めた相手と結婚するのが普通だった。
それでも2人は確かに惹かれあっていた。
でもそれは言える事では無かった。
お見合いの中で一度2人で会ったことがあった。
夏祭りの夜だ。浴衣を着た英子とシャツのボタンを上まできっちり留めている正英だ。
2人は後悔していた。
洋服なら彼に合わせられたのに、と。
浴衣なら一緒に着てあげられたのに、と。
でもそれは言わなかった。
違ってもそれでも隣を歩けるのだから。
その日子供が持っている林檎飴に2人は惹かれた。小さな手に握られた棒に大きな宝石が付いている様でほしくて買った。一口かじれば甘い飴と酸っぱい林檎がもどかしかった。
その後しょっぱいものが食べたいと焼きそばを買った。だけど食べづらくて何処か座る場所を探していた。そんな時だった。英子が悲しそうに屋台を見ていたのは。その時人気だったカステラは売り切れていたのだった。英子は言った。
“私カステラが好きなの。”
知ってはいたが機会がなくてそれから1度も英子にカステラを買ってあげられなかった正英がいた。
それから結婚式を迎えて2人の日常が始まって、
子供が2人できた。そして英子は死んだ。
あれから、ずっと悔やんでいた。お互いに。
もう一度、もう一度。そう考えるたびに自分の顔が浮かんだ。お互い見たこともないしわくちゃの顔でわかってもらえるだろうか気がついてもらえるだろうか。そんな時2人はふと思い出した。
お祭りならお面があると。
お面をつけていてもあの人ならわかってくれると。
それは2人の深い愛が死んだ後も紡がれ続け、
いつかまた2人で歩きたいと願った証なのかもしれない。
黄泉道中 胡蝶蘭 @kochou0ran
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