最終話 ステキな犯罪者
「!」
澤部は顔を青ざめた。
「おい、うちの生徒になんてことを!」
岡村教員が怒鳴りつけた。
「実はですね。あなたの最大の誤算は、プールの時計を見たことにあるんです」
「え? だから臣尻さん、あそこから時計は見えないし、どうしてプールの時計を見ていたと言えるんですか?」
臣尻は肩をすくめてやれやれといった表情で、
「プールの時計が見えないという件。今は8月で日が長く、午前六時台でも明るいです。何が言いたいか。プールの水を反射させて時計を確認していたんですよ」
「えっ……」
呆然とする秦野警部補。
「あなたは時計がずれていたと錯覚し、時計を進めた。しかしその後恐らくスマホの時計を見たのでしょうね。そして気づいた。その時間が間違いだと。そこで時間を戻そうとしたが、この時計、そこで壊れちゃったんですよ。そしてあなたは、この時計を持っているのがまずくなり、プールに投げ捨てた。あなたは金属アレルギーだと矢部先生からお伺いしました。よって時計を所持しておらず、盗む必要があったわけです。以上が、私の推理の根拠です」
澤部はそこで、両手を拘束されたまま、崩れ落ちた。
「……だって陽菜ちゃん、私のことあんなに慕って仲良くしてくれたのに……」
頬に涙を伝わせながら、澤部は自供し始めた。
「私は確かにテニス部員です。でも陽菜ちゃん以外友達が誰もいないし、校内ランキングは最下位でした。勉強だけが私の取り柄で、陽菜ちゃんもそれをわかってた。学年首位の私に、いろんな友達が勉強を教わりにきた。でも陽菜ちゃんが首位を取って、今度は陽菜ちゃんの周りに人が集まって……」
臣尻は澤部の肩に手を置いて、
「あなたの勉強ができる才女という虚像を、及川さんは悲劇的にも破ってしまった。しかしそれは、新しい自分を見出す契機にすべきではないでしょうか。あなたはまだ若い。友達の大切さを噛みしめ、これからできるご友人を大切にすることです」
こうして、澤部は補導され、警察の取り調べにより、彼女がクロであることが確定し、彼女は更生に向けて女子少年院で頑張っている。
□◆□
「お世話になりました」
警察署の前で、夏目警部と秦野警部補にお辞儀する臣尻。
「御託はいいからとっとと行け」
「臣尻さん、ありがとうございました。勉強になり、いてっ」
夏目警部は秦野警部補の頭を小突いた。
臣尻はにっと目を細めてその場を後にした。
「本当に、あいつ、何者だったんでしょうね」
「知らん。それにしても、時計というのは精巧にできているが、案外簡単に壊れてしまうものなのだな」
「もしかして、臣尻が彼女の供述を引き出すために、細工してたりして」
「馬鹿者、迷推理もほどほどにしろ」
夏目警部はシガレットケースに指をつっこんだが、箱の中身は空だった。
了
この物語はフィクションです。
ステキな犯罪者 東京を食べるゾウ @tokyo_elephant
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます