第4話 ゴブリン食堂
「でさあ!ウチの弟がさぁ!遅いから心配して何かと思ったらさぁ!ゴブリンに野球教えてたってさぁ!」
酔った女性が騒いでいる。人間だ。
「はいはいはい。分かった分かった」
それを宥めるのはゴブリンの女性だ。
「なんでそれを職員会議で聞かにゃならんのだ~!」
「お待たせしました~。ゴブリンオムレツとゴブリンスープとゴブリンピカタで~す。ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
店員は人間の女性だ。これを作っているのはゴブリンの男性でこの店の経営者でもあるらしい。
運ばれた料理を見る。どれもゴブリンと付いているが別にゴブリンを食材にしているのではない。オムレツは何やら具が沢山入っているがよくあるオムレツだ。スープは数種類の野菜をコンソメで煮立てた物に溶き卵が入ってかき玉の状態になっている。ピカタは鳥とこれは豚肉だろうか?それに卵を付けて焼いた物である。どれも従来からの人間社会にあった物だ。
ではなぜゴブリンと付くのか。それはこれらが全てゴブリンの好む味で作られているからである。だから正確にはゴブリン風と呼ぶべきだろう。では人間の物とどこが違うのか、それは味の感じ方の違いにある。我々人間にとって食とは栄養を摂取する行為である。だから体に不足する物を口にすれば美味いと感じるし塩分にしろ水分にしろ必要以上に食べようと思うと不味いと感じるのである。一方ゴブリンの味覚は栄養素ではなくその自然性を感じるためにある。元来ゴブリンは妖精の一種である。物質世界ではなく精神世界(人間からすればそんな怪しげな物があるのかも分からないのだが)の住人でありこの世界に留まるために必要な物がこの世界を構成する要素である。自分でも何を言っているのか分からないが彼らがそう言うのだからそうなのだろう。それでこの世界でより自然に近い形の食べ物こそ彼らが必要とする物でありそれらを中心に調理された物がゴブリン料理なのである。これらは人間にとっても美味しくいただける物でありこうして私のようにゴブリン料理を売りにする店に入ろうなどと言う人も少なくない。逆にゴブリンが忌避する物としてハンバーガーが挙げられる。極度に加工され自然味を失った食べ物は彼らにとって食べる価値すらない。だからゴブリンバーガーなんてゴブリンでも食べられるハンバーガーだって流行り始めている。一見有効的に見えるがその実商業主義の最たる物で閉口するしだいである。
さて、ともかく料理を食べよう。
まずはオムレツだ。中には根野菜と牛と豚肉の脂身を炒めた物が入っている。卵で包んだのではなく卵と混ぜて焼いた物だ。味は文句なしに美味しい。
次にスープ。なんとも優しい味だ。ほっこりとした人参とフルフルとしたかき玉の食感が堪らない。塩加減も絶妙。ゴクリゴクリと飲みたくなる逸品だ。
最後にピカタだ。ピカタという物は卵がなければただの肉のソテーだ。それが卵で包まれただけでどうして優しい風合いを醸し出すのだろう。これもまた美味い。
卵、卵、卵。この卵こそゴブリン料理の本髄である。彼らがこれを好むのは単に自然性の問題であるようだが私は彼らが初めて人と出会った時の話を思い出す。
それまで食うと言うことを知らなかったゴブリンがこの世界に現れて初めて空腹を知った。そして彼らが腹を空かせている事に気付いた人間は彼らに食料を与え、そうして我々とゴブリンの友好関係が始まった。
そのゴブリンに初めて食べさせた食べ物はタマゴサンドだったのである。
友達はゴブリン 山村 草 @SouYamamura
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