友達はゴブリン

山村 草

第1話 幸運のお呪い


「おはよう、水月ミツキ

 声のした方を見る。ユノだった。すらっとした鼻筋、尖った耳、低い背、彼女はゴブリンだ。

「おはよ、ユノ。ねぇ、これどうよ?」

 私は左頬を強調して見せて聞く。

「うん、良いね。似合ってるよ」

「じゃなくて、合ってる?」

「合ってるよ。この世界を滅ぼしてやる!でしょ?」

「違う!なんで?」

「はいはい、可愛いって描いたんでしょ?ほら、ここ間違ってる」

 ユノのかざした手鏡を見る。左頬に描かれた三文字の化粧。これはゴブリンに伝わるおまじないだ。オシャレとしてだけでなくそこに描かれたお呪いにはちゃんと効果があるのだ。可愛いと描けばちゃんと可愛らしく見えるし、そうか今朝からチラチラと見られてる気がしていたが気の所為ではなかったか。この間違ったまじないに因って私はこの世界を滅ぼしてやるんだ!などと叫んで廻っていたようなものである。ゴブリンには勿論意味が分かるが人間にだって効果はある。何となく伝わるのだ。

「どこどこどこ?」

「ほら、ここ。字の頭。ここの所はみ出ちゃダメだからね」

 ユノは同じ字を紙に書いて見せてくれる。これを頬に口紅で描くのだ。しかも鏡で見ながらなので鏡写しにしなければならない。

「あー、そこかぁ」

「また直接描いたんでしょ?」

「だってその方が効果あるんでしょ?」

「そうだけど。シート使ったほうが楽だし確実だよ?」

 このまじないは珍しい物ではなく女子高生の間ではもう十年以上前から一般的なものだ。だからこの呪いのための便利グッズなんかも充実している。ユノの言ったシートはその上に口紅で書いた物を頬に押し付けるだけで描けてしまうという便利な物である。いちいち鏡写しで考えなくても良いので面倒がなくていい。ただ、直接描くよりも呪いの効果は薄い。効果を期待するなら頬に直に描いたほうが良い。

「でもさぁ…」

「じゃあ簡単なのにすれば?」

「そんなのあるの?」

「こんなのはどう?」

 ユノは再び紙に三つの文字を書く。確かに画数は少なくシンプルな文字だ。

「意味は?」

 ユノは少しはにかんで言う。

「私に幸運を」

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