離島の闘牛もの。といっても因習ドロドロ方面でも、アジア版ボルヘスみたいなマジックリアリズム方面でもない。一読、すごくさっぱりした爽やかな感覚がある。
理由のひとつは、主要登場人物が若く、青春小説であることだろう。闘牛は部活の対外試合くらいの書かれ方なので(実際、生物部の牛を使ってるし)、題材から「血なまぐさいかも」と敬遠していた方は、安心していい。
青春らしく、キャラが自分のネガティブな部分に軽く向き合ったりもするが、立ち塞がる一部のキャラ以外は、みんな割といい人。生きる死ぬ家族離散といったレベルの人生の危機は今の所ないので、こちらも安心だ。
何の娯楽もない島には、この島ならではの闘牛があった。その闘牛を巡って、奮闘する高校生たちとその周りの大人たちの、青春を描いた大衆小説である。
始まりは迫力ある闘牛シーンだ。欧米の闘牛とは違い、巨体の牛同士が本当に角を突き合わせて、相手の牛を戦意喪失させた方が勝ちだ。その闘牛の世界で、悪魔的な強さで連勝を続ける、一頭の牛がいた。この牛は、何体もの牛を廃牛に追い込んでいた。相手の牛が戦意喪失した後も追いこみ、闘牛として二度と戦えなくするのだ。しかも、その追い込み方も悪意を感じるほどだ。
そんな中、高校生の主人公は、仲間たちと、高校で密かに闘牛を飼い、育てていた。主人公を含む四人の立場は、それぞれ違う。島の外から来たやつもいれば、闘牛にそれほど興味のないようなやつもいる。それでも主人公の闘牛熱に引っ張られるように、四人は行動を開始する。署名を集め、今までとは違った闘牛の在り方を提案し、学校に闘牛の飼育と闘牛出場を認めさせる。島の大人たちも巻き込んで、島版コロセウムの幕が上がる――。
果たして主人公たちの牛は、悪魔的な戦い方をする牛に勝てるのか?
そして、新しい島の闘牛の姿とは?
作者様の島への愛情と、闘牛への熱が伝わってくる一作。
是非、ご一読ください。