第2話 放課後の山田

 そんなこんなで、ようやく午後の授業が終わって、放課後。

 熱血運動部員やら、インテリ文化部員やらが青春している間に、ぼっちで帰宅部員の俺が、いつものごとくひとり楽しく家路に着こうとしていると、


「山田君」


 なんて耳に心地いい女生徒の声が俺を呼び止めた。

 誰だよ、俺はこれから帰宅部の活動で忙しいんだよ! なんてひねた台詞を言うはずもなく声の方を見ると、三つ編みで眼鏡でちょいと広めのおでこがキュートな女子がいた。

 それって『委員長』のコスプレ? ってぐらいテンプレな容姿で、おまけに『きょぬー属性』持ちとか、どんだけ俺のハートをわしづかみにするんだよ! 的な彼女は、我がクラスのリアル委員長、たちばな莉子りこだった。


「山田君、帰るの?」


 帰宅部ですから帰りますよ! とは言わずにぶっきらぼうにひと言「ああ」と返す。あ、今の結構クールじゃね? 俺がひとりゴチていると


「私も帰るから、一緒に帰らない?」


 えーと、今、なんておっしゃいました?

 生まれてこの方、聞いたこともない甘美な台詞。これぞ、神の御言葉『みことのり』ではありませんか! その質問に対する答えは、[yes/no]の二択じゃなくて、[yes]一択だよね!

 そんなワケで、俺は委員長にサムズアップして答えた。


「yes! 高○クリニック!」

「?」


 盛大にスベった。

 赤いフレームの眼鏡の奥から、くっきり二重のパッチリまなこが、不思議そうに俺のことを見ていた。キョトンとした顔もまた可愛いぜ! こんちくしょーめ!

 いつになくポジティブシンキングな俺だった。

 それから俺たちは学校を出ると、二人で一緒に帰路についた。

「暑いねー」とか、「もう夏だもんねー」とか、当たり障りのない話題を振る委員長に、俺は「あー」とか「うん」とか、これまた当たり障りのない相槌を打ちつつ、歩くたびに上下する彼女の魅惑的な膨らみを、見て見ぬ振りをする。

 あ、これって見てることが前提だっけ? まあ、健全な中二男子だったら見て当然だよね!

 委員長と肩を並べて歩くことしばし、駅前の繁華街まで来たときだった。


「山田君、ハンバーガー屋さんによって涼んでかない?」


 はい?


「私、二人で行くと半額になるクーポン持ってるんだ。暑いし、のど渇いたし、ね?」

「yes! 高○クリニック!」

「?」


 またもや、きょぬー委員長のキョトン顔。

 言わなきゃよかった。

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