第3話 寄り道する山田

 カウンターでクーポン対象商品のセットを二人分受け取り、窓際の席へと向かう俺たち。

 さりげなく冷房が直接当たる席へ俺が先に座り、風が当たらな方を委員長に譲る。

 女の子は身体を冷やしちゃいけないからね。俺、マジ紳士。

 その心は、ただあちーから冷たい風に当たって涼みたかっただけとか、そ、そんなことないんだからね! などと、俺が脳内ラノベしていると、きょぬー委員長がストローでオレンジジュースを飲みながら、じっと俺のことを見つめているのに気がついた。

 赤いフレームの眼鏡ごしに大きな目が俺を見つめる。そのまま、ストローをくわえた桜色の唇が、ちゅーっとジュースを飲む顔は、もう、反則的に可愛かった。

 光の加減か、夏服の制服越しに委員長のきょぬーを包むブラが透けて見えた。

 薄い水色のブラ。

 自然と前かがみの姿勢となる俺。

 このとき、俺は四つある季節のうち、夏が一番好きになった。

 ありがとー! 夏!

 前かがみの姿勢を保ちつつ、俺が照れ隠しにフライドポテトをひとつかじると、委員長の桜色の唇がストローから離れて、のたまった。


「山田君、異世界から来たんでしょ?」


 前かがみの姿勢を保つ必要がないくらい、一気に萎える俺。

 あ、やっぱソレですか。


「私、異世界のお話、聞きたいな」


 実は、俺はこの世界の人間じゃない。

 異世界からゲートをくぐって、この世界にやってきた異世界人だ。

 まあ、俺にしてみれば、こっちが『異世界』で俺が元いた方が『普通の世界』なわけだが。

 で、ラノベなんかだと『異世界』って言えば、中世ヨーロッパ的な剣と魔法の世界で、街からちょいと出ると魔物が闊歩かっぽしていて、王様に呼ばれてお城に行ってみると、お前が勇者だから魔王を倒してきてくんね? とか言われて、そこそこ金もらって装備揃えて、俺つえええぇぇぇするぐらいのイメージが相場と決まっているんだけど、これが聞くと見るとは大違いで、この『異世界』ってば元いた世界とあんま変わらなかったのでした。

 それでも、まあ多少の違いはあるんだけど、こっちに来たばっかの俺は、ちょっとばかしパニクってて、あと、ちょっとばかし自慢もあったりして、学校で「俺、異世界から来たんだぜ」とか言ってたら『異世界山田』なんてあだ名つけられて、すっかりイタイ人扱い。

 オレノ中学生活オワタ。

 今日だって先生にまでいじられる始末だもんな。きょぬー委員長に誘われて舞い上がってた俺が間違ってましたよ。まさか委員長にまで、からかわれることになろうとは。

 さて、帰宅部の活動に戻りますか。

 食べかけのフライドポテトを元に戻し、気だるく立ち上がる俺。


「どうしたの?」


 この日、三度目の委員長のキョトン顔。

 いや、可愛いから俺も眺めていたいんだけど。


「帰るんだよ」

「ちょ、ちょっと待って、山田君!」


 慌てて止める委員長。


「俺、からかわれてもへらへらしてられるほど、アイアンハートじゃないんで」

「からかうだなんて、そんな……」

「じゃ、そーゆーことで」


 食べかけのフライドポテトとバーガーと飲み物が乗ったトレイを手にし、さて、カウンターに行って包んでもらって家で食べるか、なんて算段をつけていると、


「待って山田君、私、そんなつもりじゃ……」


 じんわりと涙ぐむ委員長。


「行かないで!」


 これを客観的に見てみるってーと、三つ編み眼鏡のきょぬー委員長を、さんざ弄んだ鬼畜な俺が、泣いてすがる彼女を置いてきぼりにしてる図になるわけだ。

 まさに女の涙は最終兵器ですね!

 仕方なく席に戻る俺。

 今更だけど、冷房の風が冷たい。


「ありがとう」


 そう言って、赤いフレームの眼鏡をとって花柄のハンケチーフで涙を拭う委員長。俺は、その姿に見惚れた。

 眼鏡を外すと美人度上がるとか、お約束過ぎるだろ!

 それに加えて『きょぬー属性』持ちとか、あ、これ前言ったからいいか。


「あのね、私、山田君のことからかうとかじゃなくて、本当に異世界のお話が聞きたいの」

「ホントに?」

「うん」


 コクリとうなずいたその表情が、愁いを帯びていて可愛い。

 俺は「しょうがないな」なんて言いながら、渋々とした態度を保ちつつ、元いた世界のことを話し始めた。

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