第4話 異世界を語る山田

 委員長は、合間に「へー」とか「すごーい!」とか適度な相槌と「それってなに?」「こっちでいうと何が近いかな?」なんて適格な質問を織り交ぜながら、俺の話を真剣に聞いていた。頭のいいヤツってのは聞き上手なもんだな。

 いつの間にか俺は悦に入って、こっちにはない『スマホ』やら『ラノベ』やら『同人誌即売会』やらの話をしゃべくりまくっていた。

 するってーと、


「私も、山田君が元いた世界に行ってみたいな」


 やにわに、きょぬー委員長がそんなことをおっしゃるじゃありませんか。


「いや、でも、異世界って言っても、見た目こっちとあんまり変わらないんだぜ」

「行ってみたいの!」

「魔法もモンスターもいないんだぜ」

「そんなのいたら怖いじゃない」

「怖いか?」

「怖いわよ」


 委員長の答えに苦笑する俺。


「それに、そういうのって、おとぎ話っていうか現実味ないし」


 現実味――か。

 その言葉に、俺の心が揺らいだ。

 ひょっとして、委員長ってばマジで俺の話を聞いてくれてるんじゃないだろうか。

 誰も本気にしてくれない俺の異世界話を、本当に信じてくれてるんじゃないだろうか。

 今まで、ひとりとして、誰ひとりとして信じてくれるヤツなんていなかったのに。

 信じたい気持ちと、疑う気持ち。

 それが半分づつ混ざり合ってせめぎ合い、気がつくと、俺は委員長に聞いていた。


「俺の話、マジで信じてくれるのか?」


 委員長が、またもキョトンとした。

 その間、約一秒。

 それから、赤いフレームの向こうでぱちぱちっと二回瞬きし、そして、


「山田君、なんでそんなこと聞くの?」

「いや、俺の話なんか誰も信じないし」

「信じるよ。私、山田君の話、全部信じる」

「でも」

「山田君は、私に嘘なんてついてなかった」


 そこで、委員長は素敵にほほ笑んで、


「そんなの、目を見てればわかるもん」

「委員長――」


 瞬間、鼻の奥から熱いものが込み上げ、俺の目元がじんわりと潤む。


「どうしたの? 山田君」

「なんでもない」


 答えながら、俺はスンと鼻をすすり、手の甲で潤んだまなこを拭った。


「バーガーのマスタードが目に染みただけだよ」

「マスタードなんて入ってたっけ?」

「俺のには入ってたよ。たっぷりと」


 そう言ってごしごしと両目を擦る。

 この世界で初めて俺のことを信じてくれた委員長。

 信じるよと言った委員長の言葉は、目と鼻と、そして、いつの間にかいろんなことを諦めていた俺の心に、塗り過ぎたマスタードみたくツンときた。


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