第2話軍艦ーバトルシップー

『ーシステム起動。これより、能力"軍艦"のチュートリアルを開始致します』

な、どういうことだ!?

このタイミングで、能力を説明するっていうシステムが起動。

もう少し速くして欲しかったぜ。

で、システムさんよ。チュートリアルってのは何だ!早くしないと切られるぞ!

『解答します。腕で刀を受けてください』

とんでもないことを言い出した。

はぁ!?

そんなことしたら、腕がスパーンと飛んでいくぞ!

とはいえ、もう島田の一撃は放たれようとしている。

…頼んだ、システム!

人生初、システムに命を預けることになるとは。

「死ねぇ!!」

ついに島田の刀が放たれた。

唐竹割り、竹を縦に割るが如く真っ二つに切る切り方。

システムを信じ、俺は咄嗟に右手を真横に出し防御態勢。

白刃が迫る、その中で俺は体の水分が干上がるような錯覚を受けた。

ガキィィィィン………!

高鳴る金属音。

島田は唐竹割りを決めた。

その刀は砕け空中を遊んだ後、地面に突き刺さった。

実に、その刃渡り三十センチ。

水を打ったような静寂が訪れた。

……

………

…………そして、時は動き出した。

『ええぇえええええぇえぇえええぇ!?!?』

俺、島田、島田の仲間、見ていた町人たち全員が同時に、張り裂けるような声を轟かせた。

当たり前だ、刀が人間の腕に傷一つつけることなく負けたのだから。

俺も度肝を抜かれたわ。

システム、これは?

『解答します。能力"軍艦"はその名の通り軍艦の力を纏うもの、それが通常に発動したのです』

いや、ちゃんと説明してくれ!

どっかの声みたいに、変に抜けてるな。

『では、もう一度解答します。その前に質問です。真作さんは、刀で船が切れると思いますか?』

それは無理だろ、あんなデカブツを切り裂くとしたらアニメや小説の世界だけだ。

『その通りです。真作さんは軍艦の力を纏っていますので身体能力は軍艦と等しい……つまり、刀ごときに負けるはずがありません』

"軍艦"…簡単に言えば俺の体は軍艦の装甲と同じ防御力をもち、今はわからないが攻撃力も大砲と同じくらいあるということか。

江戸時代にその能力はマズくないか?強すぎだろ…

「か、刀が折られた…?どういうことだ!?」

「あいつは鬼じゃないのか!?」

島田は混乱して刀を落とし、周りは騒然としていた。

「よ、よくも島田さんの刀を!」

すると、島田の仲間の一人が懐から匕首を取り出し、一直線に俺に攻撃してきた。

その一撃を、俺はヒラリと躱す。

"軍艦"は、反射神経も強化されてるのか。

『解答します。"軍艦"は様々な能力が強化されます、反射神経は特に船と関係はありませんが、他の能力強化に準じて、上昇しています』

わぉ、便利。

よぉし…ならば少しここで能力に慣れておくか。

「わかりました、島田さん。今から体で払いますよ!」

ファイティングポーズを取り、三人と対峙する。

能力の強さを知り、刀を前にしても恐怖はなかった。

だが油断はしない、島田の仲間二人は匕首、島田自身も脇差を抜き完全に臨戦態勢。

…行くぜ。

下げていた左足に力を込め、前に出ていた右足を脱力。

それを爆発的な瞬発力に変換する。

あ、力を込めすぎたかも。

「…なっ!?」

俺が狙ったのは島田、かなり勢いをつけ過ぎたがパンチは手加減していた。

…しかし。

「がはぁ!!」

まともにリバーブローを食らった島田は、羽のように吹き飛んで行った。

距離にして、五メートル。

え?死んでないよな?

『解答します。死んではいません、もしあの一撃が骨に当たれば骨折していたでしょう』

マジか、手加減したパンチで骨折すんのか。

パワーも軍艦並みだな、本気でやったらどうなっていたことやら…

「し、島田さん!?」

「あ、ぐぅ……ふ……あぁ」

島田は地面に転がり、ゲロを吐きながら悶絶。

大の男が吐きながら悶絶、その光景に周りは引いていた。

ここまでするつもりは無かったが、もう起きてしまっては仕方ない。

「く、くそぉぉぉ!!」

二人同時に、匕首をもって突撃。

同時攻撃は基本的に回避が難しい、が強化された俺には造作もなかった。

「よっと!」

地面を思い切り蹴る。

体は、簡単に三メートルほど上空へ行った。

「な、な、なんだ!?」

もちろん二人はびっくり、そんな中で体にひねりを加える。

その昔、俺は親の勧めで体操をしていた。

特に大会などは参加していないが、初歩的な技くらいは体が覚えていた。

ひねりのおかげで体制を調整でき、二人の後方にふわりと着地。

二人が後ろを向く頃には、攻撃準備は整っていた。

「これなら、大丈夫だよな」

ズビシ!

おでこに一発ずつ、デコピンを食らわせた。

「ー」

二人は声にならない悲鳴を上げ、頭から倒れた。

流石に、デコピンでは吹っ飛んで行かないか。

まぁ、飛んだら飛んだで攻撃手段が無くなるけど。

『解答します。今の真作さんは能力の制御率が1%ほどなので、威力が制御出来ていません。もう少し制御率を上げれば、パンチでも普通の人と同等の威力に抑えることも可能です』

ほうほう、制御率か。

それを上げる方法は?

『解答します。慣れです、とにかく使って慣れる。それが制御率を上げる最も常識的な方法です。ちなみに効率を考えると、極限に追い詰められれば追い詰められるほど、より高い効果を得ることが可能です。まぁ、その前に真作さんが折れてしまえば、それまでですけど』

そうか、やはり実戦で窮地だと強く慣れるのか。

ラノベに出てきそうだなぁ。

「…」

あ、現実を忘れてた。

再び、俺の周りは静ずまりかえっていた。

その表情は、混乱、動揺、恐怖…得体の知れない何かを前にした人間の当たり前の姿。

俺を取り囲んでいた町人たちは、少し、また少しと距離をあけている。

…そうだよな、怖いよな。

俺が声を発しようとした時。

ピィィィィ!!

けたたましい笛の音が木霊した。

そして、群衆を掻き分け何かが近づいてくる。

「ちょ、ちょっと退いて〜!ふう、やっと出られた」

「待ってよみっきー。置いてかないでー!」

群衆から出てきたのはー少女。

上半身は薄青色の着物、下半身は動きやすい短い黒い履物。

右手には十手を装備した少女二人。

これは俺でもわかるぞ、岡引だ!

奉行所では同心の部下で、現代で言うお巡りさんってとこだ。

ちなみに同心は、帯刀を許可された奉行所の主力。

現代では、巡査部長かな?

「君だね、騒ぎを起こしていま不届き者は☆みっきーが成敗に来たよぉ!」

二人のうち、黒髪ショートが特徴的な少女がウインクしながら十手を抜いた。

周りの男たちは「みっきー様だ!」「みっきー様ぁ!」と湧き始めた。

なんだ、あいつはアイドルなのか?

しかし、岡引が少女か…

この江戸、普通かと思ってたが何か違うぞ。

新しい疑問が生まれ、考えにふける。

ここは、本当に江戸なのか?よく似た異世界?でも、あの声はタイムスリップって言ってたし…

「えいや!」

ゴチン!

と、俺の後頭部にかなり強烈な衝撃が加わった。

倒れゆく俺の体、わずかに映ったのはもう一人の少女。

そ、そうだった岡引は二人だった…

"軍艦"とは言えども、不意打ちによる急所攻撃には耐えられなかったか。

『…真作さんの意識切断により、システムを停止します』

システムもダメだ、俺の意識と連動していたらしい。

急速に遠のいていく景色、そして世界は真っ暗になった。

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平蔵ちゃん事件簿〜タイムスリップ先が何か違う!?〜 瀬名すこ @imatimizuhakai

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