余録

 ところで、真田源太郎信綱の嫡女に生まれ、ろうと名付けられたの姫のことなのだが――。


 親の心子知らず、とはよく言ったものであった。

 父や叔父達が苦心の結晶たるその名を、姫は嫌い抜いた。

 どれ程嫌ったかは、後世に残った真田家の記録を見れば察することができよう。


 現代に残された様々な文書・書状・史料の類いを片端から繰っても、この姫のを見いだすことが出来ない。

 ばかりか、すらも書き残されていない。

 僅かに戒名かいみょうのみが伝わっているが、そこから実名を類推することは難しい。


 さて、姫は後年、縁あって夫となった従弟いとこにも、始めはその名を明かさなかったそうな。

 その夫には、己で考えた全く別の名を告げ、それ以外では呼ばせなかったのだという。


 そのために、後々、少々ややこしいもんちゃくが起きることとなる。


 ……のだが、それはまた、別の話である。


                                   【了】

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龍蝨―りゅうのしらみ― 神光寺かをり @syufutosousaku

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