第7話 自覚

 私は、この扉を開けてしまってもいいのだろうか。窓に薄っすらと映る自分の顔は、少し赤みを帯びていた。

 

 並べられた机を教卓の方へ寄せ、人ひとりが自由に動けるほどのスペースを作っている。一脚だけ残された椅子の上には学校指定の鞄が置かれ、背もたれには真っ白なタオルがかけられていた。

 この教室どころか、この階には私と夏樹さんの生徒はいない。グラウンドは汗を流す運動部員で賑わっているが、それとは対照的に、校舎の中は静まり返っていた。いつものことではあるが、今日だけは全てが仕組まれているようにも感じられる。

 夏樹さんは、窓から覗く私に気付いていないようだ。教室が蒸し暑いのか、鞄の中から取り出したヘアゴムで透き通った黒髪を結んだ。彼女のポニーテールを見るのは、これが初めてだ。

 手を後頭部へ添え、脇が露わになる。夏樹さんのこんな無防備な姿を見たのは、この学校でも私だけだろう。

 タオルで額の汗を拭うと、ペットボトルに入った水を飲み始めた。余程喉が渇いていたのか、唇から水が垂れている。ごくごくと喉を動かし、飲み口を離すと、豪快に右腕で拭いた。タオルで拭かないのは、少し意外だった。

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柑橘の色 稲野村人 @inanomura

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