第6話 邂逅

 スニーカーに履き替えて校舎の外に出ると、正面にある駐輪場の屋根にカラスが五羽、留まっていた。

 何か会話をしているように甲高い声で鳴いているが、私を見るなり黙り込む。そして少し首を傾げると、夕陽の沈む方角へ飛んで行った。そんな彼らを追いかけるように、私は校門を出た。

 

 時々、カラスは何処からやってきたんだろうと考える。特に下校の時間、電線に佇むカラスを見ながら、考える。

 卵。何度考えても答えは同じだ。正確には、どの生物から進化してどの大陸からやってきて~だとか色々と難しい答えがあるんだろうが、私の頭ではこれが限界だ。

 自分がどの生物から進化してどの大陸からやってきたのかなんて、当のカラスにはわからないだろう。その種族よりも、私たち人間の方がその種族のことに詳しいなんて、神様は想定していたんだろうか。

 そんなことを考えていると、先生から配られたプリントを机の中に入れっぱなしにしていたことに気が付いた。幸い、よくわからないことを考えながら歩いていたせいか、それほど学校からは離れていなかった。

 私は早歩きで学校へと引き返す。そんな人間を、カラスは電線の上から見下ろしていた。


 人気の少なくなった校舎に戻り、赤いスリッパに履き替える。あれほど混み合っていた階段もすっかり空いており、スムーズに廊下へと上がった。


 日はさらに傾いており、空いた窓から入り込む光が廊下を照らしていた。運動部員の掛け声は、かつての雑踏に邪魔されることなく反響している。

 その掛け声に急かされるように、私は教室へと足を動かす。窓の横を通るたび、体温にも似た温度の風が頬を撫でた。運動場を横目で見下ろすと、一心不乱にボールを追う彼らが働きアリのようにも感じられた。


 長い廊下の真ん中に、私のクラスの教室がある。真ん中にあるせいで北階段と南階段のどちらを上っても近道にはならない。

 教室へ近付くと、踊るような足音が耳に入った。立ち止まって後ろを確認するが、誰もいない。

 耳を澄ませて聴くと、間違いなくクラスの教室から漏れているのがわかった。誰かが教室に残って遊んでいるんだろうか。それにしては話し声が聴こえない。そもそも私のクラスメイトのほとんどは何かしら部活に入っているし、自習なら図書室で、というのがセオリーだ。

 私はもう少し足を進め、教室のドアの前に立つ。そして、静かに中を覗いた。


 そこには、見慣れた黒髪。それは、私の席から見る長い黒髪。私の前の席に座る黒髪。反対側の窓にかかるカーテンと共に、夏の風に棚引いていた。

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