まぶたの上には超機能:物欲センサー
ちびまるフォイ
TERA育ちのTさん
「おめでとうございます、パッチリ二重まぶた手術は完了です」
「よかったです。小さな手術でも緊張するもんですね」
「時間余ったので物欲センサーもつけておきました」
「なんで!?」
「当店からのサービスです」
物欲センサーを取り付けられた俺は猛抗議したものの、
いざ街に出てみると便利なことが多かった。
街の人とすれ違えば、物欲が感知できる。
(あーーあ、最新のスマホほしいなぁ……)
すれ違いざまのサラリーマンの物欲がわかる。
物欲センサーを入れてから俺はプレゼントで嫌がられたことがない。
それに使い方は他にもある。
「いや~~苦労したよ、Xチューバーのライブチケット取るの」
「お、お前! その超プレミアチケットをどうして!?」
「なんか、たまたま応募したら手に入ったんだよなぁ~~。
でも、この日は予定があるから、このチケット意味ないなぁ~~」
「頼む! ゆずってくれ!! 金ならいくらでも払う!」
「ん? 今なんでもするって言った?」
「言ってないけど、そうするから! 譲ってくれ!!」
「ああいいよ」
まるで興味のないチケットも入手しておけば、
あとは物欲センサーで欲しい人に譲ってお金に換金できる。
ネットを経由しないから転売でしっぽを掴まれることもない。
「いやぁ、物欲センサーって最高だ!!」
ただし、文句があるとすれば1点だけ。
生物に対しては物欲センサーが感知できないという部分。
子犬がほしいとか、そういう物欲があっても
本人が生物として認識しているものは感知できないらしい。
「この欠点さえなければなぁ……」
強く猫を欲しがっている人に、先にペットシーツを与えてしまうなどの失敗がある。
第一希望の生物を感知できないからだ。
そんな苦情とい名の激励と癒やされない心の痛みを添えて
とりあえずカクヨム運営に問い合わせたところ、ついに実った。
【 物欲センサーアップデートのお知らせ 】
・生物に関する物欲も感知できるようになりました。
・ポテチの袋を、こう、グッて開ける時、爆発しにくくなりました。
「おおお!! マジか!!」
ついに最大にして唯一の欠点が解消されていた。
アップデートにはおしりにコンセントを差し込んで
「メジャーアップデート! 2.0!」を叫び、水を飲むとできる。
早速実行してみると、物欲センサーが更新され、視界の中央に「2.0」が表示された。
「これで生物への物欲も感知できるんだな、さっそく試してみよう」
いろんな人の物欲を感知してみようと人通りの多い場所を選んだが
どういうわけか自分の周囲だけ避けるようにして人が過ぎていく。
「なんだろう……体臭ってわけじゃなさそうだし……」
「あの、いいですか?」
耐えかねたのか、他人が声をかけた。
「独り言、みんなに聞こえてるから、気味悪いですよ」
「独り言? そんなの言ってないような……」
「さっきから、アイドルのグラビア雑誌が欲しいって言ってるじゃないですか」
「どどどどど、どうしてそれを!? 誰にもファンだと言ってないのに!!」
すぐに原因は気づいた。
物欲センサーの公式ページにはやはりお詫びの告知が書いてある。
---------
【お詫び】
先日配信したアップデートファイルにミスがあり
物欲を感知するではなく、発信してしまうようになっていました。
とりあえず、詫び石だけはあげときます。ごめんね。
---------
「いや、修正しろよ!!」
手元には「蛇び石」と雑に書かれた石だけが残った。
物欲を完治できなくなったあげく自分の物欲まで知られてしまうなんて。
無性に恥ずかしい。
自分のブラウザの履歴を全国民に後悔した挙げ句、
ひとつひとつにどうしてアクセスしたのか解説させられるくらい恥ずかしい。
ガチムチパンツリレーの動画なんて、どう説明したらいいのかわからないし。
「ああ、もうダメだ。自分の気持ちを垂れ流し続けて生きるなんて終わりだ!!」
「お困りのようですね」
「あ! あなたは!?」
「私は寺生まれのTというものです。そういうときは煩悩を捨てるのです」
「そうか! そもそも物欲を断てば発信されることもない!」
「よろしければ、私のもとでともに修行しませんか。
あなたも雑念が取り払われた清いガラスの10代へと戻ることが出来るでしょう」
「いやそこまでは……髪剃るの抵抗あるし……」
「意外と、お坊さんってモテますよ。
真面目なイメージが女性の警戒心を解くんで」
「参加します!!」
かくして、俺の寺での修行がはじまった。
毎日、飲み会での話の振り方から
女性が好みやすい私服ファッションを勉強して雑念をなくす。
猛り狂っていた物欲も、凪のように収まった。
「これも修行の成果ですね」
「はい。毎日記憶を飛ばすまでお酒のんだかいがあります」
「あなたをお坊さんとして認めましょう。
これからあなたはT-2000と名乗りなさい」
「急にターミネーターぽくなりますね、でもありがとうございます」
俺も晴れて「寺のTさん」になった。
物欲を失いガツガツしなくなったことで女性も近寄りやすくなり彼女もできた。
「あのとき寺を初めて本当に良かった!」
さぁ、キミもこの冬休みに差をつけて寺デビューしようよ!
この冬休みが将来を決める大事なポイント!
『寺研ゼミ 冬季講座』
未来はいつもあなたの物欲を捨てきった先さ!
------------
【 物欲センサー再アップデートのお知らせ 】
・先日発生した不具合が直せなかったので、バージョン戻しました。
・割り箸をキレイに2つに割れるようになりました。
------------
「ねぇ、Tくん、アップデートのお知らせ来てるよ」
「ああ、そういえば、センサーとかあったなぁ」
物欲捨てていたのですっかり存在を忘れていた。
せっかくなのでアップデートを実施すると、
生物以外の物欲が感知できるように戻った。
(あーーあ、この財布、最近ケチり始めやがって。新しい彼氏ほしいなぁ~~)
まぶたの上には超機能:物欲センサー ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます