第5話

 メディアが伝える角川春樹像は全くの嘘だとは思わない。だが彼が角川書店を去って以降、業界のメディアミックスはさらに活発になったが、肝心の小説がつまらなくなった、と私は個人的に思う。




 父、源義が社長時代、角川がランボーの詩集を編集しているとき、父から「おまえは文学を愛していない」と叱責されたという。学術的解説を省き、従来よりも装丁に注力した本を作っていたからだ。これに対し角川は「僕は僕なりに文学を愛しているが、ビジネスが大事」と答えたという。


 結果、角川の編集したランボーの詩集は予定よりよく売れた。


 このエピソードをもって角川が本物の文学をわかっていないと誤解されるが、彼が社長就任中、角川文庫は面白かった。




 小説は映画、テレビドラマ、漫画、アニメより面白くなくてはならない。あるいは他のメディアより面白くなければ本物の小説ではない。そして自分が編集を担当するのは本物の小説の原稿だけ......。


 こうした気概を持った編集者が現在、業界にどれくらいいるだろうか。




 違いがわかる男(あるいは女でも可)が業界のトップに戻ってくれば、小説も面白くなり、出版不況も少しはいい方向へ変わるように思えるのだが......。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

角川春樹 vs ビンス・マクマホン 違いがわかる男のクラシック カキヒト・シラズ @koshigaya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る