サスペンスホラーというタグに偽りなく、独特のスピード感でスリリングに展開される物語が、所々、主観の変わる一人称によって強調されているように感じました。
彼らはよくいえば自由に、悪くいうならば自分勝手に生きています。親しい相手に対し、過剰ともいえる対応をしたり、死を極端に怖れている印象を受ける反面、生に苦痛を感じているような印象を受けたりします。
もし人生を、生まれる事で始まり死ぬ事で終わる活動であると定義すれば、生を嫌い、死を怖れている彼らの人生とは、どんな言葉で表せるのだろうか、と考えさせられました。
しかし、生まれてきた事が間違いかといえば、そうではないと感じる絆が、登場人物それぞれにあります。
アンビバレンス、コンフリクト…そんな言葉が浮かんできます。
そして、ふと題名に気付きました。
敗者の街――敗者とは、何をして敗者というのか。
死に対して恐怖を感じても、それは漠然としたものであるし、生きづらいと感じても、特別な苦しみを抱かない私たちの「逆」を単語ひとつで表すとすれば敗者なのだ、と感じました。
それら重い考察が浮かんでしまう本作ですが、その文体にあるのは醜さではなく、美しさです。
美しいからこそ、サスペンス、スリラー、ホラーなのです。
最初はすべて透明なピース。しかもあちこち散らばって見分けがつかない。
何となく合わせて、つなげて。でも合わなくて。
もどかしい時間が長く続きます。
でもゆっくりと、本当にゆっくりとピースは色を得ていく。
様々な状況に揺り動かされ、振り回される人たち。
やがてすべてがつながるとき、それぞれに待っているのは祝福か、罰か。
緻密に組み立てられた世界観とそれをきっちり纏め上げる作者の頭のおかしさに、
一種の麻薬的な快感を感じられたら十分。
あなたも立派なジャンキーです。
病的な依存性を持つイカレた群像劇にどっぷりハマってみたい方、
是非おすすめしたい。