最終話 絶唱
少女は全身の力が抜け、その場に座り込んだ。目から涙が溢れていた。
青年といた時間など、ほんの少しのはずなのに。青年の扱われ方にひどく感情を揺さぶられた。
彼女は願い、歌った。
鎧は全て消え去った。
少女の脳裏には、青年と過ごした時間が蘇っていた。
雷に打たれた姿。
洞窟での寝顔。
獣の背中で歌っていたこと。
城の外へと連れ出されたときの景色。
初めて青年に会った瞬間。
青年の笑顔。
青年が怒っている姿。
覚えのない映像が混ざっていた。
少女は思い出した。
自分はメル・アイヴィー。
願いを実現させる力を持った天使。その力は強大で、使い方によってはあまりにも危険すぎると判断され、この最果ての世界へと追いやられた。その判断に異議を唱えていたのがあの青年だった。
メルは願い、歌った。
自分と青年、それ以外は何もいらない。
世界が揺れ始めた。メルが願った通り、2人を残して世界は崩壊している。この崩壊を止める術はもう無かった。
メルと青年のいる場所を残し、世界は崩壊した。もう2人しか、ここには存在しない。
さらにメルは願い、歌った。
残った場所一面に花が咲き、青年は雷に打たれる前のキレイな姿に戻っていた。
メルは全ての力を使い果たし倒れた。メルは最後の力を振り絞り、青年の手を握ると静かに目を瞑った。
花に囲まれ、2人は並んで眠っているようだった。
メルの顔は、幸せに満ちていた。
遠い世界の片隅の城の少女 天神シズク @shizuku_amagami
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