シロが闘ったのは、戦争という魔物かもしれない。

『逢魔ヶ刻』、またしても泣かせてくれました。
相変わらず、文章は素晴らしく構成も見事です。そしてそれ以上に、戦時下に生きる修一とシロの関わりが、切なくもゆるぎない絆となって、私の胸に焼き付いて離れません。
私の親からも、戦争疎開時の話はたびたび聴くことがあります。幼少時ながらも当時の記憶を鮮明に覚えており、その訴えてくる様には迫力があります。ゆえに、色褪せることのない史実なのだと、思い知らされる次第です。

シロが命をかけて闘った化け物の怪奇、そして終戦。
【みちくさ怪談朗読】でも、コメントいたしましたが、シロが闘ったのは、戦争という魔物ではないかと思えてきます。結果、命を犠牲にして修一を護ったことは、この時代背景に生きた人々の、心根を映し出したように受け取れました。
シロとの出会いが、修一にとってその後の人生のお守りであってほしいと願わずにはいられません。

『陽炎の家』でも感じたことですが、この作家でなくては語れないものがある、と確信しております。創作でありながら真実に迫り、その文章からは篤実に向き合い、魂への情愛を持った姿勢がうかがえます。
終戦前後に関わらず、通年にわたって読みあたり、想いを馳せてほしいと思わせる作品です。怪奇とはいえ、心に沁みる情念を読ませていただき、ありがとうございました。

追記)月浦氏がSNSにて発表している『呟怖』シリーズでは、「キレのある怪」を楽しむことができ、油断ならない作家として注視している昨今であります。