非暴力世界のつくりかた

ちびまるフォイ

差がなくっちゃ安心できないもの

世界の様子を見ていた宇宙人は心を痛めていた。


「ああ、どうしてニンゲンはこんなに争うのだろう」


「キミの能力でなんとかできないのかい?」


「それだ! やってみるよ!」


宇宙人は自分の超能力でニンゲンすべての力を平均的にした。

子供も、大人も、男も、女も、すべて同じ力。


腕相撲は誰が戦っても同じ結果になるし、

暴力犯罪もなくなり、夜道に女性が怯えることもなくなった。


「最初からこうすればよかったんだ。

 みんな同じ力になれば平和になるな」


それから宇宙数年。宇宙人はニンゲンの様子を見に行った。


「あれ!? こんなはずじゃなかったのに!」


ニンゲンたちはやっぱり争っていた。

弱い人間や強い人間の差が生まれてしまった。


「あれだけみんな同じ身体能力にしたっていうのに……」


ニンゲンたちは力がなくなると、今度は武器を手にしてしまった。

武器を持つと急に強気になり差が生まれてしまう。


身体能力が同じでも、武器を持っているかどうかで差が出てしまう。


「武器を取り上げてもまた新しいのを作るだろうし……うーーん」


「何を悩んでいるんだい。キミの能力があるじゃないか」


「僕の能力は弱体化しかできないんだよ。

 ニンゲンの頭を弱体化させて武器を扱えなくするのはかわいそうだよ」


「じゃなくて、武器を弱体化すればいいじゃないか」

「それだ!」


宇宙人の力で武器が弱体化された。


鋭いナイフは人に刺すとこんにゃくのように柔らかくなり、

銃弾は水鉄砲よりも飛距離がでなくなり、自殺をしようにも傷一つできない。


「キミの弱体化能力は、俺の数字を記す能力に比べて

 ずっと、ずーーっと応用がきくね」


「能力差があっても僕たち宇宙人に争いが出ないのになぁ」


宇宙人は武器の弱体化を済ませて安心した。

それから宇宙数年が流れた。


再びニンゲンの様子を見た宇宙人はがくぜんとした。


「そんな……どうして……!?」


ニンゲンはまた弱いものいじめを始めていた。

身体能力を弱体化させ、武器を弱体化して攻撃の手段を奪ってもなお。


彼らは、人数を集めて、群れで強さを作ってしまっていた。


多人数のニンゲンは孤立しているニンゲンを襲い、また混沌の世界に戻っていた。


これには宇宙人も完全に諦めがついてしまった。


「ああ……もう無理だ……止められない……」


「それで、ニンゲンの様子はどうだったんだい?」


「ニンゲンから力を奪っても、武器を奪っても無理だったよ。

 群れを作ってしまうんだ。これ以上どうすればいいのか……」


「キミの能力じゃ解決できないのかい?」


「前にも言っただろう。彼らのニンゲン性を奪うまで弱体化させたくない。

 そりゃ、言語力を弱体化させれば群れを作れなくなるだろうけど

 それはもう僕の好きだったニンゲンじゃないよ」


「そっか……それじゃ、俺にまかせてくれないか?」


「任せるたって、数字を記すだけだろう?」


「ああ、そうとも。俺の能力は数字を記す。

 だから、これからニンゲンたちにニンゲン価値を顔に刻むよ」


「お、おい! そんなことしたら差が生まれるだろ!」


せっかく力を奪って平均的にさせたのに

争いの火種になりそうなことをしてしまう。


必死に止めようにもすでに能力は発揮されてしまう。


ニンゲンの顔にはそれぞれ、ニンゲン価値の数字が表示された。


「19」

「29」

「48」

「09」

「38」 などなど。



「なんてことをしてくれたんだ!

 これじゃお互いの数字を気にしてニンゲンが争うだろう!?」


「そうでもないみたいだよ」


ニンゲンの様子を見ると、数字が刻まれてからニンゲンはおとなしくなっていた。

自分を強く見せようと群れを作ることもなくなった。

むしろ、かかわらないように避けているフシすらある。


「すごい、平和になってよかったよ」

「ニンゲンは自分が優れていると思えればそれだいんだよ」


宇宙人はニンゲンに刻まれた数字を見て不思議に思った。


「なぁ、この数字はどうやって出してるんだ?

 ニンゲン価値なんて、どうやって計算するんだろう」


「ああ、それは俺が入れた数字さ。意味はないよ」

「テキトーかよ!!」


「比較できる数字であればなんでもいいってことさ」


「まぁ、平和になればそれでいいけどさ……。

 というか、数字の1の位に8と9が多いのはなんで?」


宇宙人は笑った。


「自分の数字を見る時、かならず鏡を見るだろう?

 十の位と一の位が反転するように見えるからね」



鏡に映る優れた自分を見るたび、ニンゲンは満足感に包まれていた。

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