久しぶりに五感を揺さぶられた作品かもしれない。
「宙見市」と言う小さな地方都市を舞台に、少年と少女が「黒い影」と呼ばれる異星の謎を追いかけて行く。
魔法が使える訳でもなく、ずば抜けた能力を発揮できる訳でもない二人がAR(拡張現実)デバイスの普及する世界を疾走する姿。
その様子は作中に散りばめられたテクノロジーとは別に、どこかノスタルジックな場所へいざなってくれる不思議な作品だ。
街、人、空、海・・・すべてにおいて匂いたつ表現は筆者の独特の文章表現のせいだろうか。
読み進めながら、気が付くと登場人物の「月島宗典」「千川柚子乃」と共に宙見市を一緒に駆け抜けようとする錯覚すら覚える。
「STAY HOME」が叫ばれる中、ちょっぴり窮屈に感じたのであれば二人と共に宙見市を冒険してはどうだろう。
これは筆者が紹介する通り、「すこしふしぎ(SF)」を追いかける、少年と少女の物語だ。
SFというと、やはりロボとか宇宙とか、そういうイメージが強いんですが。
本作は日常を舞台とした近未来でのお話でした。
G.Aと呼ばれる仮想デバイスが日常に存在する世界。
そこで盲目だが、G.Aにより世界を見ることができ、しかも特殊な力を持った柚子乃が、奪われたあるものを黒い影から取り返すべく奮闘する所から始まります。
作戦は失敗し、逆に黒の影から追われる事となった彼女の前に現れた、黒い影を触り、払える記憶喪失の青年宗典に助けられて。
と、特異な出会いを経て進んでいく物語です。
近未来らしい、現実にも近い世界観の中で、柚子乃と宗典だけでなく、柚子乃の家族なども出てきますが、まず良かったのはその日常や現実味。
柚子乃の人間不信な性格の理由から、黒い影に奪われた物など、非常に人間らしさがあるんですね。
しかも、家族も家族なりの温かさを感じて、展開にほっこり出来ることが多い。
そして、そんな中でも話の中核にある、宗典と柚子乃の力と、黒い影の存在。
それらの謎を解明し、柚子乃は無事、奪われた物を奪い返せるのか。そして宗典は記憶を思い返せるのか。
変な言い方かもしれませんが、SFらしからぬSF、と言っても良い本作。
作者のいうSF(すこし不思議)な、物語。是非読んでください!!