第2話

頭が痛い。


気分が悪い。


吐きそうだ。


そう思い目を閉じたまま考える。


何をしていたんだっけか


何か楽しい事をしていたような



「俺はあそこにいってそれから目眩がして...」



そして意識がはっきりとしだし目を覚ます。



「夢...?」



そんなはずはない時計は水曜日の午後6時



「俺は自分で帰ったのか?」



もし、倒れていたならば今彼が寝ているのは病院だろう。なのにも関わらず彼がいるのは自宅のベッド。よく言う、知ってる天井だってやつだ。



「やっと起きたみたいだね。調子はどう?」



知らない声だがどこかで聞いたことのある気がする。


そして目の前にはなぜ今まで気付かなかったか分からないが美少女が座っている。



「誰だ?」



嫌悪感も敵意もない口調。

何故か彼女にはそれが抱けない。

彼女を見つめる。

その容姿を見て百舌は魅了されずにはいられない。

彼女は自分の理想を絵に書いたように美しいからだ。

その彼女の口がゆっくりと動き


「そんなに見つめないで。恥ずかしいから。」


その口からでたのは意外な一言

そして百舌も不思議と


「ごめん」


そう謝っていた。


「別に良いけどね。僕が誰かねぇ...君であって君でない。その表現が的確かなと思うよ」


「は?」


口から思わずでた疑問の声、自分であって自分でない、ということは妄想の類いだと言うことだ、何でこんなものを見る?熱中症の後遺症か?


「今の一言で僕が妄想かと思った?」


何故か的確に表現され百舌は口ごもる。


「何故分かるのかでしょ?私が君だからだよ。」


百舌は頭が良いわけではないが理解は人並み以上。上の下くらいは早い。


「通報するぞ。不法侵入で」


理解出来なさすぎて諦めた。彼女には帰って貰おう。


「倒れた君をここまで運んだ恩人にたいしてひどい仕打ちだね」


普通に考えれば彼女がここまで運んだことは分かる。だがそれとこれとは話が別だ。


「ここまで運んでくれたことには感謝する。だが、帰ってくれ。別に話すようなことは何もない。」


彼は少しながら恐怖していた。自分が見ている未知の存在に。


「運んだっていうか、乗り移ったって感じかな?君の肉体に僕が」


「乗り移った?」


意味がわからない。自分の理解を越えている。恐怖は時と共に増すばかりだ。


「別に通報してくれても良いけど僕の存在は君にしか見えないから意味ないと思うよ。」


「俺にしか見えない?」


「そうだよ?疑うならそのスマホで僕をとってみたらどうだい?」


百舌は言われるがままスマホのカメラを起動して彼女に向ける。

写らない。

本来そこに写るはずの姿がない。肉眼では見えるのにカメラ越しでは見えない。


「だとしたらやっぱり妄想の類いじゃないか。」


百舌はこれは妄想だと自分に言い聞かせる。だが、本能は納得してくれない。そして恐る恐る


「お前は何者なんだ?」


「だから、僕は君なんだって。」


そしてかわいく笑い


「これじゃ可愛そうか君が。そうだね...僕は大まかな意味での君の思念体だよ。だから君にしか見えない。」


「思念体?幽霊みたいな感じか?」


彼女の言葉は百舌にとってなぜか重みがある。信用できる。そんな重みが。


「まぁ簡単に言ってしまえばそうだね。」


「そんな幽霊が何の用なんだ?」


「目的?...あぁ君と友達になろうと思ってね。」


「は?」


「友達になってなんになる?」


百舌はさも不思議そうに、拍子抜けしたようにその言葉を漏らす。


「なにかあると思う?」


「...っ」


疑問を疑問で返されて言葉を詰まらす。


「じゃあこういえば良いかな。友達とかじゃなくて、僕には君の力が必要だ。僕は自分自身の肉体を取り戻すために。そのために君を利用したい。」


余計に意味がわからなくなる。だが利用したいと言われると今までの行動にも合点がいくかもしれない。

だが、協力するかどうかはまた別の話。


「手伝う意味が分からない。俺はお前のために何かしようと思わないし、助ける意義がない。」


すると彼女は困ったようにはにかみ


「そんなわけにもいかない。私が存在しなくなれば君が困るだろ?」


「困る...?俺が...何で?」


当惑を隠せない。


「疑問を疑問で返さないで欲しいなぁ。まぁそれは僕も同じか」


その言い方は楽しそうだ。


「何で?」


今度は威圧するように言う。

彼女は楽しそうなのだろう様子を変えずに


「僕は君だと言っただろう?実質的には違うけど大きな差異はないよ。だからこそ、僕に何かあれば君にも何かある。そんなもんでしょ?」


「そんなもん...?例えばお前が消えたら俺も消えるってことか?」


想像すると悪寒が走る。それは多分百舌の中で考えうる一番最悪の想像。


「いやー、どうなんだろうね。僕も分からないや。」


帰ってきたのは明るい口調。

百舌にはそれがまた気味悪く感じ、


「分からないって」


怒りを露にする。


「もしかしたら何もないかもしれない。軽い怪我ですむかもしれない。あくまで可能性の話さ。」


そこで彼女は間をおき


「死ぬってのも可能性の一つではあるけどね。」


彼女の言葉には重みがある。

肌で感じれるほどの重みが。


「何かと説得力のある言い方だな」


「言い方に説得力があるんじゃなくて、私に説得力があるんだよ。」


百舌はよく分からないという顔をしていると


「僕は君だからね。自分自身の言葉には説得力があるものさ。」


そう言い放った彼女を見て思う。

話はよく分からない。

説明もよく理解できない。

だが、彼女と言葉を交えれば交えるほどに、百舌の心は肯定に向かっていっている。

動物のように本能で。

百舌は大きなため息をつき、腹を括る。


「分かったよ。お前の事は信用できないが本能が信頼している。俺に被害が及ばないために手伝う。何をすればいい?」


半分投げやりでそう言う。


「ありがとう。そしてよろしく。黒川 百舌」


彼女はそう言って左手を差しのべる。


「あぁ...」


そう言いかけてふと考える。

こいつは俺だと言っていた。

ならばこいつの名前も百舌なのだろうか?

彼女はそれを読み取ったかのように


「僕の名前は...セイだ。セイと呼んでくれ」


百舌は名前を言う前の間を特に気にせず手を取る。


「分かった...セイ」


握手した手がぼんやりと光った事は気付かない。


セイは握手が終わると可愛く笑い


「力を使いすぎちゃった。今日はここまでだね。姿を消すよ。」


「消す?」


百舌が疑問と同時にセイを見るとセイはそこに居なかった。

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