図書館暮らし。
紬季 渉
図書館暮らし。
誰もいない図書館。何の音もしない。何も動く気配がない。もう何世紀も時間が止まっているような不思議な空間。本棚のそこここに影が出来て、何かが潜んでいるような怪しさも漂う。古い本たちは風化しそうになるのを時間の速さを変えて耐えているようだ。
児童書のコーナーに一人の男がいた。男は児童書の落書きを指でなぞり息を吹きかけていく。すると落書きは少しずつ薄くなり消えていった。男は優しい微笑みで本に語りかけける。
「痛かったかい?気持ち悪かったかな?もう大丈夫だよ。」
すると本は男の手から離れ、ふわふわと自分の場所へと帰っていった。
男は腰をあげて図書館の中を歩き始める。どこへ行くともなく、のんびりと図書館の中を散歩するように。
すると、一冊の本が飛んできて男にくっついた。まるで迷子の子供がお母さんを見つけて飛びつくような、そんな感じだ。男は優しく本をめくる。手を止めたページは破れていた。男は
「つらかったね。ゆっくりお休み。」
本はまた男の手を離れて元の場所へ帰っていく。
男は古い本がたくさん置かれているコーナーへと進んだ。本たちはそわそわと嬉しそうだ。男は椅子に座ると子守唄を歌い始めた。本たちは静かに聞き入り、空間が何かで満ちていく。古く乾燥した紙たちは少しだけ潤いを取り戻していた。
男は立ち上がると大きな伸びをした。そしてまたゆっくりと歩き始める。
図書館の端にある小さな温室に着くと睡蓮の池に座る美しい女の膝枕で眠った。二人は日が昇る頃に、毎日こうして眠りにつく。
本を愛するがゆえに図書館の精となった男と睡蓮の精の女。二人はいつしか恋に落ち、真夜中の日課を楽しみながら、この図書館で暮らしていた。そうして毎日男は本を
図書館暮らし。 紬季 渉 @tumugi-sho
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