第3話
酒が進むにつれ、拓也とママの存在を忘れて僕は美香に夢中になっていた。
生い立ちにはじまり、母子家庭で母親が早くに他界したこと。
モデルになりたくて上京資金を貯めるため地元のスナックでアルバイトしているところを、旅行で訪れた霞ママにスカウトされたこと。
霞ママのおかげで上京し、モデル事務所には入れたが今の所属事務所で、いかがわしい仕事をさせられそうになっていることなど。
気が付けば社長の拓也を横目に俺に任せなさいと、大見栄をきっていた。
実は彼女の所属している事務所には前から黒い噂が囁かれていた。
社長が所属モデルに売春を斡旋させていることや、覚醒剤などを与え事務所から離れられなくさせているなど。
ただ、その時の僕には彼女を悪者の手から救い出す勇者になる以外の選択肢はなかった。ひととおり食事を済ませた後、美香の件を話し合うため拓也と二人で飲むことにした。
僕としては、彼女を今の所属事務所から引き離した後に自分達の事務所に所属させれば済む話だろうとタカをくくっていた。
しかし、社長である拓也の考えは違った。
拓也の話によると、相手の事務所にはケツモチがいると。
簡単に言うとトラブルを解決する暴力団が後ろに控えていると言う。
暴対法の進んだ今のご時世にそんなことがあるのかと。
だが、拓也の確かな筋からの情報で間違いはないと言う。
かと言って、このまま引き下がれるワケもない。
見栄を切った彼女の手前もあるが、彼女が見ず知らずの男達にいいように弄ばれるのを想像すると我慢ならなかった。
自慢ではないが、拓也と僕は腕っぷしには自信があった。
地元に不良が多く、学生の頃は二人でよく他校と喧嘩をし地元では知られる存在だった。
万が一モメてもなんとかなるよ。
そう言って拓也を説得し、僕は美香の移籍に向けて動き出した。
思えば最初から美香に、特別な感情を抱いていたのだろう。
愛する妻と娘の顔を、その夜だけはおもいだせなかった。
愛狂 フロムK @kousle
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