VS魔物のウルフ~商売作戦、儲け第一!~
彼等が動くごとに、それに
清き光に見放された狼達は俺の刀の
まるで刀がブレイクダンスを踊らせるかの如く、振り回す。
「それにしても、刀の扱い方が巧いねえ。何でなの? それって、やっぱチートを受け取ってるから?」
アリアさんが電撃魔法で後ろから狼の足止めをしてくれている。その攻撃の援護に感謝するべきだ。だが、今の言葉で俺の脳内にあった感謝の言葉が全て怨念に変わる。
「全然違います。こっちは」
「そっかぁ、剣道部……?」
一匹の狼が前から突進してくる。油断していたかと、慌てて刀を相手に突き刺した。運よく相手の急所を狙えたようで。
自分の身が本当に無事なのか、体のあちこちに触れながら、アリアさんに言葉を返した。吐き捨てるかのように。
「……演劇部です」
「え……刀でしょ?」
「だから、演劇部です。刀の持ち方から振り方までみっちり指導されましたよ。まあ、剣道部の子にも教わりましたが! 何か?」
「ごめんごめん! ワタシの優雅さに嫉妬しちゃったんだね」
「それ、謝る言葉じゃないですよね!?」
「ごめん。えっと、あっ、そっかごめん。演じることが好きだから、中二病の後遺症が残ってたんだ。理解してあげられなくてごめんね」
彼女は手を合わせている。そんな彼女の元に僕は全身全霊で言葉をぶつける。
「言葉の選択が最初から間違ってますから!」
俺が誰もいない草原で耳が吹っ飛ばすかのような叫び声を上げた。それでストレス発散完了。
今、考えるべきは、どうやって仲たがいをするかではない。どうやって、二人で協力して生きるかだ。
その中で問題になるのが、資金の問題。自分達二人では狩猟したり、木の実を採集したりすることはできない。狩猟はできても、どう解体すれば、良いか二人とも分からないのだ。木の実も幾らアリアさんが物知りでも異世界の植物までは知りようがない。毒が入っていたら、お終いだ。
だから、そう言った食べ物は金で買うに限る。だから、俺達は今、魔物を狩り、その身を売って資金稼ぎをしていた。
「さて、これを私の重力軽減魔法で運ぶよ! 街で売りさばきましょ!」
彼女の手が歪む。そこから、白くて奇麗な光をまき散らす。
俺は狼の身を恐る恐る、両手で持ってみる。血がついていない場所を選び、丁重に運べるよう気をつける。神経をここまで使うと、後の疲労が大変なのだが……。
「行きましょう。腐ると、だいぶ値が落ちますから」
「え、ええ。しっかし、それだと限界があるわね。ここはスマホのオークション機能を使ってみるのも手かしら? ほら、色々な場所に新鮮なままワープしてもらえるから」
スマートフォン。そうだ、彼女は魔法のスマートフォンが使えるのだ。
「何故、それを早く言わなかったんですか! それなら、株でも何でもできるでしょう!」
「株か……苦手なんですよね。特に野菜の方」
「貴方の好みなんか、どうでもいいんです! 何でもっとお金稼ぎの方に気を回さなかったんですか!」
「き、昨日まで気づかなかったんだから、仕方ないじゃない」
アリアさんが口を尖らせている。これ以上、彼女を責めて、頬を紅く染め上げるのも気が引けるので、黙って許すことにした。
「……まあ、いいでしょう。異世界オークションとやらを楽しく体験させていただきましょうか!」
早速、彼女にスマートフォンの画面を見せてもらう。アカウント設定は済んでいるから、後は物を売るだけだ。
「この狼の写真を撮って、できるだけ高値で売りたいところですね。この量なら、一金貨からスタートで何とかなりませんかね?」
一金貨。牛、一頭分の値段だ。それなら文句ないだろうとスタートの金額を設定してから、アリアさんに渡す。すると、彼女は初めてテレビを見た子供のように画面に顔を近づけた。
「眼が悪くなりますよ」
「よし。客どもめ。早く、買いなさい。買いなさい」
彼女から禍々しい気配を感じる。猫耳がついている少女がスマートフォンを見入っている姿はあまりにも味気ない。
それよりも彼女のグラビア写真を売れば、秒で入札されるのではないか、と思ってしまった。何という色欲。自分の馬鹿な考えを呪って、額に手を当てる。
立って、スマートフォンを見続けている彼女。俺は近くの岩に腰掛けて、狼の体が腐らないよう、見守っていた。
「ねえ、アリアさん?」
「何?」
怖い。邪魔されたことが嫌だったのか、睨みつけられた。
「……氷魔法で冷やしといた方がいいんじゃないか?」
「あっ、そうだった」
彼女は俺の指摘に意味があったことを知り、華やかな笑顔を見せる。最近、彼女の本性が見え隠れしてきて、恐ろしいったら、ありゃしない。
アリアさんは笑顔で魔法を放ち、狼の身を凍らせる。その姿が逆に悪い。やるなら、凶悪犯の顔をしていてほしかった。
俺の体はすっかり冷え切って、氷のように固まってしまった。
「で、はい。誰か入れなさい!」
文字通り、頭が冷えたのか。冴えている。そのせいで妙な疑問が浮かび上がった。
「誰かって、誰の事? そのオークションって、使えるの異世界転生者だけじゃない? しかもスマホを持ってるから、限られるし。そんな人達がこんな狼を欲しがるかな……?」
「……今すぐ、私の服を売れと?」
アリアさんは想像力がどれ位、優れているのだろうか。確かに緻密な連想をしていけば、そういう結果にはなるかもしれないが(いや、俺は断じてそんなこと考えはしないがな!)。
「考えすぎ」
「じゃあ……ソージロー君の服を効率よくオークションに出しましょう」
「嫌だよ!」
「じゃ、刀を」
「もっと嫌だよ! 何唯一の武器売ろうとしてるんですか!?」
「じゃ、ソージロー君を」
「人のことを考えてるんですかねぇ!」
涙目になっても無駄だ。
「じゃ、あのアホ女神を」
「それは絶対に嫌……あっ、確かにあの人、身売りすれば何とかなるんじゃないですかね?」
最後に良い事を言うではないか。俺は無意識にも首を縦に振っていた。そんな時、スマートフォンから音楽が流れ出した。
もしかして、女神から? 俺はアリアさんを引っ張って、近くに逃げようとする。だが、そのアリアさんがスマートフォンを持ってきているのだから、意味がない。後でそのことに気づき、彼女と顔を見合わせて目を丸くした。
「ああああああっ! ダメですよ!」
「あっ、違う。これ、あのダ女神からの着信じゃないよ! えっと、やっとようやく売れたみたい! 金貨二枚って、よっしゃあ!」
「……えっ、それって……」
「間違いなく、大儲けだよ! ワタシ達、二人ね! やったぁ!」
俺は肩の力を抜き、彼女に微笑んだ。一番の報酬はこうして、アリアさんが喜んでくれたことかもしれない。
相手に歯を見せ、綺麗に笑うアリアさん。彼女をモデルにして絵が描きたくなる。それ位に芸術的な可愛さと美しさを持っていた。
その日は酒場で祝杯(アリアさんはお酒だけど、自分は木の実果汁100パーセントのジュースにしました。二十歳になるまで、お酒はダメ、ゼッタイ)をあげた。
少し硬かったけれど、久しぶりに宿屋の布団で熟睡できた。これが希望になるだろう。
「オークション……レビュー 狼 星五つです!
只今、大量の血と身の生贄が不足していたところでこんな狼。本当に助かりました。金貨二枚で本当に良かったのでしょうか。実際の値段の十分の一にも安く変えてしまいましたが。まあ、良いでしょう。私の呪術が成功したのは貴方達のおかげです! 売ってくれた方々には感謝を申し上げます。
イケニエ! サイコー!」
異世界幻想、一般常識で斬る! 夜野 舞斗 @okoshino
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