第19話 詩可沼への朝の賛歌

19 詩可沼への朝の賛歌


一篇の詩を可能にするのは耳か

Muse のささやきに耳を傾けよ


虚ろな目に詩の風景を見せる街

美智子を誘って朝の散歩にでる


眼球よとらえよ

わが街の狂気を

耳よ 聞くのだ

ねとっく淫語を


すれちがうものたちは表情の欠けた鼻欠けた空洞の眼窩

の二対の闇と青い二重ねの唇を所有する両性具有生物で

ありましてのべつ幕なし処女膜なしのサカリのついた肉

の穴になったり欲の棒を構築したりこれからひねもすの

たりのたりとヤリまくるのだから夜と昼とを峻別する詩

のこころある生物を異界の人が漂っているように眺める


さあ朝だなにか売ろう

男も女も娘も売ります

女房だって売りますよ


男根ももぎたてだよ

ハウス育ちのアケビ

生々しくひらいてる


故郷の土 鹿沼土だって

袋に詰めて売るんだから


ペットボトルの水も

缶詰めの酸素も

農薬づけの芝生も

どうぞどうぞ買ってください

右や左の都会の旦那様


だから街は酸素が不足

孕み女が あんたがた

どこさ 鹿沼さ

でも足を踏ん張る土壌が消え

炭酸ガスと泥水の底に街は沈む


眼を閉じるとそんな街が見えるのだ

耳をそばだてると街の呻きが聞ける


もう帰ろうよ

美智子

もう沢山だよ

美智子

もう帰ろう

散歩の歩みは朝から重い

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詩の部屋 麻屋与志夫 @onime_001

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