第18話 梅雨の街角

18 梅雨の街角


故郷を離れたことのない男には

故郷はあるのだろうか

遠きにありて思うもの

そんな故郷への感傷はない

いま わが生まれおちた街は

詩可沼は梅雨の底

ぼってりと

悔恨の沼にひたっている


名誉 犬にくれてやった

権力 犬にくわせた

財力 犬のオシッコのにおい

夫婦のいざこざ

犬にも食べてもらえないことは

したことはございません

愛する彼女と出会った街角は

いま 梅雨の底

名誉も権力も財力もないまま

ふたりですごした この三十年

野良犬の数から

彼らの交尾期に

いたるまで

なんでもしっている

そんな

ふたりが

街を歩く

バカ面をして

はい

わたしたちは

なんにも

見ていません

聞いてません

はなしません

猿になります


だから街を歩かせてください

街は濡れて 泣いている

いつも いつも 涙雨

雨の底




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る