エピローグ

 夏。

 オレはクズキやオギとの約束を断って、真希奈さんを河川敷の花火大会に誘った。

 屋台はいろいろあるけれど、杏子飴といちご飴、リンゴ飴のどれにしようかと迷う真希奈さんのかわいらしさには敵わない。

 オレは綿あめの最速の食べ方を披露して呆れられた。

 へへっ、固めて食べるのは面白かないが、面倒がない。

 夢がない、と真希奈さんが怒るので、じゃあ夢のある話にしようか、と水を向けた。

「夢のある嘘って何だと思う?」

 それはいつかの続きの話。

「私は愛なんてささやかない。口に出したら嘘になってしまいそうだもの。言わぬがなんとやらよ」

 パーンと、金色の花火が夜空にこぼれた。

「オレには愛してるって聞こえる」

「もう、ばかね」

 真希奈さんは黙ってオレの額にキスをした。

 幼いころ、彼女が去っていったときのキス。

 スナック「令嬢」で彼女がくれたやさしさ。

 全部が、この瞬間につながっていたのだと、思い知る。

「本当だね。言葉は有限だ。いつか風化する。でも、おかしいかな。君の嘘は愛おしい。すべてが……」

 オレは触れることのない肩を、心の中でぎゅっと抱きしめた。

 そろそろ、仕舞いの時刻だ。

「それは……嘘じゃないね」

 真希奈さんが、肩にかかった黒髪をさらりとゆらして、こちらを見ている。

 オレたちは、紅や青、金の満月が降りてきたような夜空の下、いつまでも見つめ合っていた。

 お互いの吐息まで感ぜられそうなほど。


                                     了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初恋! シンドローム れなれな(水木レナ) @rena-rena

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説