moth
リエミ
moth
子は、小さな頃から母に聞いていた。
私たちは、光の方向へ進んで生きているの。
光がなくては生きられないのよ。
子は最近、強烈な光を見つけ、何度もそこへ向かおうと考えていた。
でもね……と母。
強すぎる光は、その分刺激的よ。
でも、命を落としてもしまうのよ。
あなたの父は、光に長く当たりすぎたのね。
最後にはビリビリになって、体を溶かしてしまったのよ。
子は疑問に思う。
ぼくらは、光を夢見ることを忘れない。
光がそこにあれば、照らされに行く。
これは本能的に、大昔から遺伝されている行為なんだ。
光、なんてまばゆく美しいものだ。
なぜぼくらを魅了し続けるのか。
子は、友に連れ立って出かけた。
びっくりするぜ、今までになくあたたかい光なんだ。
こっちだ、ついてこい。
目にもくらむ強烈な光だ。
そして、彼と子は、どちらがより光に近づけるか、という遊びを始めていた。
悪いウワサを聞いて、母は不安になった。
若いときは誰でもそうだけど、やりすぎの限度を知らないのね。
あの光は、あの子の身を滅ぼすわ。
お母さん、ぼくは突き止めてみたいんです、とあるとき、子は言った。
ぼくは自分の命なんて、それ程大したものなんかじゃないと思っています。
ぼくのために心配しないで下さい。
ぼくにはぼくの幸せが、あの光の中に待っているような気がするのです……。
ぼくは幸せを見つけに行きます。止めないで、お母さん……。
子は体に、小さな火傷をいくつも負っていた。
友は怖くなって、もうやめていた。
おれはあの光は、とても不気味だと感じ始めた。
おれは降りるぜ。
あの光に振り回されてちゃ、そのうち死んじまう。
あの熱さは異常だ。
子は、友に聞いた。
なあ、あの光が何というものか、知っているか。
さあな……。
友は言う。
ただ、ずっと前からある。そいつはいつ現れるかも分からねぇ。
ある日、見たことあるんだ。
おれが木の下にいると、天が裂けて現れた。
そう、暗い空が、突然光とともに裂けたんだ。
そして、高かった木は、一瞬にして光一色になった。
おれは怖くなってすぐ逃げだしたが、木は赤々と、雨が降るまで光を放っていたんだ。
でも、とても……美しかった。
子は強烈な光のそばで、父のことを思った。
父は何を求めていたのだろう。
ぼくは何を求めているのだろう。
この虚しい世界で、どうしようもなく、ぼくは、どこへ行けばいいんだろう。
何を目指して生きてゆくのか。
光は眩しく子を照らした。
なんて熱い光なんだ。
心を煮えたぎる情熱のように、ぼくを誘う。
どこへ連れて行こうとするの。
そこには、父も待っているのだろうか。
光の中に、ぼくが求める何かがあるの。
光はそれとも、ぼくを必要としているのかもしれない。
子は光の中へ飛び込んだ。
体が燃えていた。
それは子の体を溶かし、焦がし、灰にしていった。
一瞬のようで、時間は永遠だった。
子は幸せを感じたのかもしれない。
しかし、何事もなかったように、炎は燃えていた。
◆ E N D
moth リエミ @riemi
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます