この物語では、自然に存在する精霊たちと、その世界に暮らす人間たちを描いた物語です。
主人公の少年レアンは、とある惨劇により故郷を失い、惨劇を引き起こした存在への仇討ちを志すべく立ち上がりました。
もとは心優しい少年だった彼が、悲壮な決意のもと立ち上がる――――王道とはいえ、とても見ごたえがあります。
そして、大地に暮らす精霊たちと心を交わし、ともに歩む存在として契約します。
時に彼らに助けられ、時に彼らを助け、協力関係を築いていくうちに、いつしか少年レアンは大きな運命の渦へと身をゆだねることになるのです。
しっかりとした文体で読みやすいうえに、穏やかな場面も激しい場面もあり、どんどん引き込まれていくいい作品だと思います。
…………これだけべた褒めしたのですから、まさか読まないなんて選択肢はないですよね? ね?
主人公レアンの住む村が、人工精霊のサラマンダーによって焼き払われた。そして、レアンは地の精霊のプリムラと共に旅に出る‥‥。
このような導入で始まる『精霊の騎士』は、ゲームのような派手な魔法による戦いというものはなく、超常の力として精霊の存在があります。精霊よる恩恵を受けての生活や戦いなどの描写を活かす物語の世界の設定の緻密さを楽しめる作品です。森の民の暮らし、病を治すための病気レアンの母の精霊の儀式、メルビス帝国、エザフォス国ら多くの国々の対立や、戦争の為の人工精霊の開発等、人々の生活や政治の全てに精霊が関わっていることが分かります。超常の力を使う理由や方法がストーリーの軸となっているのでわかりやすく、そして本格的なハイファンタジー作品となって重厚なストーリーを楽しめる小説となっています。
この小説の魅力としてまず主人レアンの視点を中心にした、上述の精霊と世界についての関わりを知っていく楽しみ、レアンの相棒のプリムラの可愛さと頼もしさが挙げられます。次に精霊との契約がバディものとしての要素を強め、どの陣営の登場人物も魅力的なものにしています。
また、同じく魅力的なのが、政・軍事の描述です。人工精霊の導入やそれをめぐる国家間の陰謀、国内での駆け引きなど主人公たちがやがて全面的に対決していかなければならない人物や舞台が、読み進めるうちにじわりじわりと増えてきます。国家の防衛のために人工精霊を軍に導入しようとする少壮の将軍とそれに反対する祭司官長、そして帝国からその技術を持ちだした美女、帝国内部で蠢く闇の精霊使い…。羅列するだけで胸が躍ります。
最後に登場人物について、個人的にはトリシィとクライグがお気に入りです。強い老女が活躍する小説に外れはないと個人的に思っていますし、クライグはその立場から様々な陣営と関わっていくと思われるため、物語のもう一つの目として、また精霊リアラとの子供時代からの関係からも注目しています。ぜひ、皆さまも自分の好きな人物を読みながら見つけてください。それほど魅力的な人物が多い小説です。