最終話 旅立つもの、見送るもの

 緊張感に包まれたまま卒業式典は進んで行った。


 卒業生総代、ハヴィ・ラント。

 技術開発部への配属が決まりかけていたが、土壇場で白紙になった。

 あまりに優秀過ぎてそんな所へはもったいない。ぜひ、参謀本部へ、という運びになったらしい。


 その代わり、地上科の1年生4人を予約キープさせてやるから。そんな条件で軍本部と技術開発部との交渉が成立したのだった。


 地上科の4人。もちろん未冬たちである。


 彼女たちも会場の後ろの方に参列していた。


「わたしたち4人と引換えって、酷くない?」

 フュアリが隣のマリーンにささやいた。


「仕方ありませんよ。ハヴィさんがそれだけ優秀なんですから」

 何をいまさら、という表情のマリーン。

「でも、以前はマリーンちゃんもそう言われてたよ。技術開発部にはもったいない逸材だって」

「そ、そうなんですか。それは、……初耳でした」

 未冬に言われて、マリーンは微妙に残念な表情になった。


「付き合う相手で周りの評価が変わってくるという、いい例だな」

 エマが笑って総括する。


「あ、終わりそうだよ」

 4人は会場に目をやった。


 卒業生たちが、帽子に手をかける。


 次の瞬間、一斉に制帽が宙を舞った。


「おおー、格好いい!」

 4人はうっとりとその光景を見ていた。



「来年は未冬の分まで投げてやるからな」

「あのね、エマちゃん。わたしの落第を前提にして話すのはやめて」


「いや、あいつは空の上から見ているよ、きっと」

「フューちゃん、それ、死んでるよね」


 さあ、次は。3人の視線がマリーンに注がれる。

「あの、これ大喜利か何かですか……。じ、じゃあ。来年はちゃんと勉強して下さいね」

「うわー、それが一番キツい」



「なんだ、終わってるじゃないか」

 後ろで男の声がした。

 振り向くとウェルスが白の制服姿で立っていた。


「あれ、どうしたのウェルスくん」

「げっ、またお前らか」

 未冬たちに気付くと一、二歩後ずさった。いまだに女子寮での悲劇がトラウマになっているらしい。無意識にベルトを押さえている。


「教授が今日の総代をさらってこいって、うるさいんだ」

 真面目な顔で言っている。


「相変わらず発想が海賊のままだねぇ」

「でも、言いだしたのは教授なんでしょ」

 教授かぁ、ウェルスはひとつ頷いた。

「何だか、うちに来るはずの総代を、ゴミみたいな連中と交換させられた、とか言って嘆いていたぞ」


 おのれ教授。誰がゴミだ。

「この鬱憤を、ウェルスくんにぶつけてやる」

「やめろ、ばかっ!」


 一方、そんな事には関係なく、卒業式はつつがなく終了した。


 ☆


 未冬は艦外の展望台に来ていた。まだ風は少し冷たい。

 空には白い雲がいくつか浮かんでいる。


 後ろのエレベーターのドアが開いた。

「胸、揉んじゃだめだよ。ハヴィちゃん。いや、ラント少尉」

 振り向きざまに言われ、彼女は残念そうに両手を引っ込めた。


「居場所は見つかったかい。未冬」

 横にならんで、ハヴィは言った。

 うなづく未冬。

 どこにも自分の居場所を見つけられず、逃げていた彼女は、もういない。


「自分じゃ分からないだろうけれど、随分変わったよ。未冬」

 半年前に、ここで会った時とは。


「ううん、分かる気がする。だってわたし、いまは全然、無理してないもの」

 無理に頑張ろうとしなくていいから。


 ハヴィは考え込んだ。


「それって、努力を放棄したって事じゃないよな」

「え?」


 え、じゃないだろ。

 こいつは、居心地が良すぎてもダメなんだな。

 なんてバカで、なんて可愛い。


「じゃあ、しっかりな」


「もちろんだよ、ハヴィちゃん!」


 すぐに、士官学校の2年目が始まる。


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機械仕掛けのワルキューレ 杉浦ヒナタ @gallia-3

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