エピローグ
これが、世界。
私は、眩しさに目を細めた。飛行機は、朝日に向かってまっすぐに飛んでいた。
夜明けの空は、炎のような赤色だった。地平線から零れた光は、荒廃した大地を金色に染め上げる。その強さに、圧倒された。
この光を、シキとリシュームも見たのだろうか。ふと、そんなことを思う。きっと、見たのだろう。そして、同じように、目を細めたのだろう。夜明け前の森を駆け、そして、夜が明ける頃に、二人は、荒野に出た。
そこで、きっと、この光景と同じものを見たのだと思う。
二人の物語は、『死の森』を出たところで終わっている。
付け加えるならば、シキはその後、数年間リシュームとともに暮らし、病気で亡くなった。戦争中だったから、決して楽な暮らしではなかっただろう。リシュームはその後も生き、長い時間を生き抜き、やがて孫が出来る頃になって、ようやく落ち着いた生活を手に入れたという。
そして、その孫が無謀な冒険に出るのを、たった一人、笑顔で見送ったのだ。
飛行機は、森の上を飛んでいた。航路をうまく変えながら、地図に印がついている場所、管理センター跡を目指す。
私はずっと、そこに、大切なものが眠っていると思い込んでいた。
けれど、違った。
眠ってなんか、いなかった。
地図を見ながら飛ぶまでもない。それは、圧倒的な存在感でもって、私の目に飛び込んできた。
森だ。
死んでなんかいない。眠ってもいない。
生きた森だ。緑色の葉を茂らせ、空へと手を伸ばす森だった。
地面を破り、コンクリートの瓦礫すらものともせずに、上へ上へと伸びる大樹が見えた。一本や二本ではない。寄り添い、重なり合い、森を成している。
改良された品種の、自浄作用によるものだろうか。この森が完全に放棄されて、すでに数十年が経っている。
祖母に伝えたかった。叫んで届くならば、今ここで叫びたかった。
世界は、こんなにも美しい。
星の指先 佐々木海月 @k_tsukudani
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