星の丘
リエミ
星の丘
ジョンはいつもの、なだらかな道を歩いて、小高い丘へやってきました。
今は夜。
悲しくなると、ジョンはここに来るのです。
そして、空を見上げました。
真っ暗な広い夜空に、画びょうで穴をあけたような、小さな光がありました。あっちにも、こっちにもです。
いつの日かお父さんが、あれは遠い場所にあって、決して触れない、星というものだよ、と教えてくれたことを、ジョンは思い出しました。
「星」
とジョンは呼んでみました。
しんとした世界に、ジョンの声は響いて、エコーとなりました。
「星」
もう一度言ってみると、また向こうから「星」という、小さな声が聞こえます。
ジョンは心の中で、「あれは星、星、星。あれも星、星、星」と、星を数えて遊びました。
一つ、小さな星がいちだんと大きく輝きました。
そして、こちらに向かって、するり、と降りてきたのです。
「こんばんは、ジョン」
と星が言いました。
「ぼくは星のカムパだよ。きみに会いに降りてきたよ」
「どうしてぼくのこと知ってるの?」
ジョンが尋ねると、カムパは、くすぐったそうに笑いました。そして「いつも見てたからさ」と言いました。
「ねえ、一緒に遊ばない? 夜のお空を散歩しようよ!」
ジョンは少しためらいましたが、カムパが「おいでよ」と手を差し出したので、その手につかまりました。
すると、するりするりと、ジョンはカムパと一緒に、手を繋いで、空へ、高く上っていきました。
お父さん、ぼく、星に触れたよ!
ジョンは心の中で叫びました。
ぼくもう、この手をぜったい、離さない!
夜のことでした。
丘の近所に住むおばさんが、電話に向かって喋っていました。
「あ、警察ですか? また、自殺ですよ。丘から子供が飛び降りました。ええ、見てたんです。あれは確かにジョンくんでした。最近、たった一人の身内のお父さんを、亡くされていて……。私は、死んだら星になるのよ、と慰めてはいたんだけれど……」
「分かりました。すぐ向かいます。……しかし奇妙ですね。これで5人目ですよ、その丘からの飛び降り自殺は。死神でもいて、誘っているのだろうか」
電話の向こうで、警察官も首を傾げました。
その小高い丘は、夜になると、たくさんの流れ星が見えるそうです。
光につれられ、何人もの人が飛び降りてしまう、自殺の名所と呼ばれるようになったのでした。
◆ E N D
星の丘 リエミ @riemi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます