第2話

1年生の頃は時間に余裕を持って家を出ていたのに今じゃもう中だるみしちゃって乗るのは遅刻ギリギリのバスだ。


乗客は少ないから学校に着くまでが早いし座れる。

まぁ、バスが着いたら学校まで走らないといけない事もあるからいい事ばかりじゃない。


1番前のタイヤで盛り上がって他よりも高い位置にある席が私の定位置だったのに、5月くらいかなぁ?暑い日で、バスの冷房が心地よかった。

いつもの席に座ろうと思ったら知らない人が座っていたんだ。

息が止まるくらい儚げで綺麗な人だった。

男の人に綺麗って言うのも変なのかもしれないけどもう形容し難いほどに纏うオーラが他とは違っていた。

一目惚れだったんだ。

恋なんかした事なかったけどでも、わかった。

笑った顔が見てみたい、どんな声なんだろう、話したい、そばにいたい…


色んな欲求が湧き出てきて止まらなかった。


「綺麗…」


「え?」


思わず声に出ていた。


彼の顔をガン見しながら呟いていた私に彼は驚いていた。

当たり前だ。

というかやってしまったどうしようこれは完璧に引かれたぞ?


「あっ、えっ、え、すみません!!!」


謝って逃げようと思ったがバスはもう出発してしまっている。

どうしようと考えているとそれまでぽかんとしていた彼が吹き出した。


「…ふはっ」


「えっ…?」


「いや、君面白いね。いきなり僕の顔見て綺麗って呟いて焦りまくって挙動不審なの笑うなって言う方無理だよ」


思ってたより低かった彼の声とくしゃっとした笑顔に思考が停止しかける。


「や、ほ、本当にごめんなさいいきなりこんな事するとかヤバいやつですよねすみません…!」


「んーん、大丈夫大丈夫。僕は綺麗とか言われまくってるから慣れてるよ安心して」


「あー、そうですよね…」


普通にこんな綺麗な顔してたら綺麗って言われるわなぁ…


「や、嘘だよ!!つっこんで!」


第一印象とは違い人なっつこい犬みたいな人だった。


「つっこんでくんなきゃ僕ナルシストみたいじゃんか恥ずかしいわ」


「あはっ、ごめんごめん真に受けちゃった」


「もー!罰としてすべったかわいそうな僕に君の名前を教えて!」


「橋に谷ではしやで命って書いてみことで橋谷命です!あなたは?」


「命かぁ、いいね。僕は広山 露だよ!朝露とかの露って書いて露!」


名前を聞いただけで嬉しかった。運命かとも思った。だって命と露は縁語なんだもの。これは、気持ち悪がられるかもしれないから言わないでおこう。


「うん、露ね!!素敵な名前。」


「ありがとう。命はその制服、もうちょいでバス降りるでしょ?早く連絡先交換しよ。」


「え?!いいの!?!!」


天にも登る気持ちだった。こんなに上手くいっていい物なの!?

私の時代きたの!?!

露が人なっつこい性格で良かった。ん?いや、人なっつこいってか馬鹿なのか??

警戒心無さすぎない??いいの??


「え、逆にダメなの??」


「ダメじゃないよ!!交換しよ!!」


友達の欄に露がいる幸せを噛み締めた。


私が降りる駅にバスが着いてしまった。


「露、ばいばい!」


「はいはい、またね〜!」


またねって言ってくれた。それさえも嬉しかった。ルンルン気分で学校に優雅に向かいたいところだが今日は全力疾走しなくちゃまにあわない。


走ってボサボサになった髪と汗をかいて真っ赤な顔でチャイムと同時に教室に滑り込む。

セーフだ。


朝のホームルームが終わった早速ゆっち達に今朝の話をしなくちゃ。

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目に見えるものすべてを信じちゃいけないんだ @panjina

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