第16話〜裸足で波打ち際に〜

裸足で波打ち際に

 じめじめとした雨の季節が終われば、待っているのは裸足の季節。

 素足が好き。たとえ「バケツがひっくり返ったほどの雨量」と表現された梅雨の日でも、私は裸足にサンダルでじゃぶじゃぶと水をすり抜ける。

 今年の夏は海に行く。去年の夏に付き合い始めた彼はいわゆる美意識高い系男子で、「海は焼けるから嫌だ」と去年は行ってくれなかった。のだけど、今年は渋々オーケーしてくれた。



「わあっ。気持ちいいー」

 八時を回ったところで気温三十度。

「早くおいでよー」

「見て分かんないの? 日、焼、け、止、め!」

 私みたいに家で済ませてきなよ、と言いたいところだけど、家で塗った上でのそれだろう。

 売店のパラソルから出てこない彼を尻目に、私は足をぷらぷらさせながら、波打ち際をゆっくり歩いていた。

 ところが履いていたビーチサンダルが、波にさらわれて脱げてしまった。私は慌てて駆け出した。

「痛っ」

「どした⁈」

  バランスを崩して倒れた私の視界に、色白の脚が映った。

「サンダル脱げちゃって。そしたら早速やっちゃった」

 私は足の裏を何かで切ってしまったらしい。血が滲んでいた。サンダルが浮かんでいる場所は深くなっている。

「とりあえず戻ろう」

 ひょい、と私の体が浮いた。

「え、いいよ。歩くから」

「砂が傷口に入ったら、洗うの大変だろ」

 このか細く白い腕に私を支える力があったとは。

「……ありがと」

 せっかくの海。付き合ってもらったのに台無しにして、罪悪感いっぱいの思い出になるところだったけれど、彼の男らしい一面に、それどころではなくなった私だった。

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1分でできる妄想シリーズ 降矢めぐみ @megumikudou

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