第15話〜青春の香り〜

青春の香り

 男なら制汗剤に香りなんて必要ない。と、いつも無香料を使っていた。しかし夏の体育を終えたある日のこと。


「やっぱ柑橘系だよね〜」


 制服に着替える女子グループの一人が、そう口にした。俺は気になって耳をそばだてた。だって俺の好きな女子がいるグループだから。


「うん。私も柑橘派かな」


 何っ? 彼女も柑橘系が好きなのか……。手に持った制汗スプレーの「無香料」という文字を睨みつける。


 最近では液体タイプが流行っているらしい。液体をこぼさないように気を使うのが面倒な代物だ。ただ、好きな女子が液体を体に当てる仕草は、正直……なんというか……エロい。


 その週末、俺は柑橘系の匂いの制汗スプレーを購入した。




 人は年齢を重ねると、香水というものを嗜むようになる。しかし俺は、この香りも好きになれなかった。いくら柑橘系の香りを選んでも鼻につきまとうのは鬱陶しい残り香。


 代わりに柑橘系の香りのするソープを一年中使っている。顔まで全身使えるオールインワンタイプ。さすがに香水の香りには勝てないけど。


「お前さー、香水付けないの?」


 どうやら俺の香りは届いていないらしい。


「いいんだよ、苦手だから」


 社内の廊下で、同僚との話がこんなことに発展していた。それをたまたま近くを通った後輩の女性たちが聞いていたようだ。


「でも先輩からオトコ臭したことないですよー?」


 彼女の香水は甘ったるい。しかめっ面になりそうなのをなんとか堪えた。もう一人の女性もこんなことを言う。


「先輩は一人の時に、ふわっと柑橘系の香りがします」


「は、マジで? 全然気がつかなかった」


 同僚は驚き、先ほどの彼女もこくこくと頷いている。


「二人とも、もっと強いの付けてるから〜。私はこれくらいふんわり香るくらいが好きです」


 そう言えば、彼女からいつも漂うのも柑橘系。どうやら新しい恋を運んできたようだ。

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