第14話~窓に伝える恋心~
君は今日も一人、グラウンドでボールをひたすら蹴り続けている。
一年の時、三年の先輩が引退したあとのレギュラー決めで、その名前が呼ばれなかったことを悔しがっていた。
雨の日だった。
他の部員が自主練を切り上げたあとも、君はがむしゃらにボールを蹴った。きっと、降り注ぐ雨が君の涙も一緒に流してくれているのだろうと思った。
冬も、次の春もその名前が呼ばれることはなかった。図書室の窓から見える、肩を落とした君の姿に胸が苦しくなった。
この冬が最後。
気づけばほぼ毎日、図書室に通っていた。窓際のこの定位置は、サッカーゴールがよく見える。
『スキ』
結露ができた窓に、はあっ、と息を吹きかけ、白く曇った窓ガラスに気持ちを添えてみる。
ドキドキする。ここは二階でも、ガラスが白くなっていることくらいはよく見れば分かる。それでも私は、この文字をすぐには消したくなかった。
それからすぐだった。小さな小さな白い粒が視界を舞い始めて、思わず空を見上げた。そして視線を戻すと――。
「えっ」
小さな驚きが口から漏れた。君がすぐ下まで来て、こっちをじっと見ている。慌てて文字を消すようにガラスの水滴を拭った。彼は私に背を向け、腰を折ったまま移動している。
『オレも』
グラウンドの土に刻まれた文字。彼の右手には木の枝のような棒が握られている。
口をパクパクさせている彼に、私は窓の鍵に手を伸ばした。
「下りてくれば? 雪降ってる」
あれ、今日の本はどこの棚だっけ。図書室を出て、目の前にある返却箱に入れてしまうことにした。
階段を駆け下りながら呟いた。
「外、寒そうだなあ」
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