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「やっぱり期間限定なら顔が良いほうがいいですよ」
かちかちと長い爪が液晶画面に当たる音がする。
「立場がねえなあ」
「東さんはわりとイケメンですし、大丈夫ですよ。いけますって。今彼女いないんですよね」
「それ、なんて返せばいいわけ? えーっと、なに。顔だけでいいの?」
「できればお金はあったほうがいいなーとは思っちゃいますけど。あたし、そういうトコ飾ったりしないんで」
「そういうもんなの? プレゼントとかは? それも期間限定?」
「モチロン売りますよ。今あるじゃないですか、そーいうアプリ。あ、でもアクセサリーとかはすぐ売っちゃダメですから。ネットオークションとかと同じで、時期ってヤツがあるんですからね。ソーバです。ソ・ウ・バ」
「純粋に疑問なんだけど、それってお互い楽しんでるの?」
「当たり前じゃないですか。でもそっか。東さんは真面目ですもんね」
「ああ――いや、ごめん。よく言われるけどそうでもないよ。外面がいいだけ」
バイト先の後輩はスマホから顔を上げると、またまたぁとあまり興味がなさそうに笑った。
「でもでもですよ。クリスマス前はこういう話よく聞くでしょ、男のひとも。あたしは友達の愚痴ばっか聞いてたら疲れちゃって」
「愚痴って。クリスマス前に?」
「ですです!」
後輩の原田は身振り手振りで話すので、休憩室のパイプ椅子がいちいち軋んでうるさい。
「ほら、いるじゃないですか。理想が高すぎる子。あたしの言う顔が良いっていうのはそこそこ、なんですよ。『いかにも苦労してません!』っていう顔はダメなんです。高嶺の花って言われるひとってだいたい人のものか地雷物件でしょ? そういうのばっかり好きになる子、いるんですよ。あれ完全に引っ掛かってますね。幸せになれないタイプ」
「あー……その子も一生懸命なんだよ」
「ぶっちゃけ重いんですって」
どうやら的外れな返しだったらしく、東の言葉に被せて原田が畳みかけてきた。
「そういう子に限ってずっと一緒にいたい~とか、運命の人~とか言ってくるんですよ。SNSとかで。重くないですか?」
念を入れて同意を求めてくる後輩にとうとう参った東は、普通が一番ってのはわかるよ――と、実に無難なことを口にした。
言ってしまえば、前の彼女との関係もそんなものだった。原田が言うように値踏みする財産も持ち合わせていなかったから、適切に適当だったのだ。大人しい女だったということだけは印象に残っている。
「そうそう。ちょっと優しくて、ちょっとフインキが良ければいいんですって。女の子も同じですよ。短い間なんだから、楽しんだモン勝ちでしょ?」
このまま原田のペースに合わせているとクリスマスの予定まで根掘り葉掘り聞かれそうだ。掘れども掘れども穴が深くなるだけだが。
「ごめんだわ。トイレ」
「はいはーい」
遠ざかる声が別の同僚を捉まえてまた惚れた腫れたの話をおっぱじめる。逃げ切った東は逆に虚しくなって、舌の先で敗北感を舐める感触を覚えた。
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