地に足についた導入からはじまり、そろそろ、そろそろとフィクションのボルテージが高まっていく歴史伝奇小説。ありそうなことだな、ありえなそうなことだな、と半信半疑な気持ちで読み進めるうちに物語世界に引き込まれていく。そして着地点ではまたしても……。これぞ胡乱! 「っぽい」伝奇小説を読みたい大人の読者におすすめの逸品です。
史実とフィクションの折衷が素晴らしいです。キサブローという名前を蝶番して語られるのは明治の秘史といった部分。実在した武術家や宗教者たちが出てきて関心ある人ならニンマリせずにいられないでしょう。明治時代が、文字通り「明るい」だけでなく相応の暗さがあったのだと納得させてくれる作品。この短さに凝縮された情報量は圧巻です。