第6話 諜報員DEET その6
真っ暗な庵の中から、しゃがれ声が響く。
「……新たな指令だDEETよ。迷宮を探索せよ」
「はっ」
「……皆の期待は高い」
「期待に応えられるよう尽力いたします」
「……さがるがよい」
「はっ」
里の評議会は、迷宮探索を新しい指令とした。
これは事実上の左遷だ。
殿のお傍に女を近づけない役目も果たせなかった自分に対する戦力外通告だ。
殿が出征したため一緒に里に戻ってきていた若様は、既に森羅のくノ一部隊に向うの言葉を教え始めている。物量作戦に切り替えるのだろう。
私に残されたのは、迷い人ではないサーラ様が力を得た謎を解きに迷宮に向かうことだけだ。
その事実が重くのしかかる。
晴れ渡る空模様だが、その分濃く長くなった影に押しつぶされそうだ。
「ディートよ」
「……若様」
足音もなく現れた若様だが、表情が硬い。事情を察しているのだろう。
「ゆくのか」
「はい」
「……武運を祈っている」
「ありがとうございます。……それでは」
私は孤立無援で迷宮へ向かう。
そこは蛮族達の領域である上に、モンスターも出るのだ。命の保証はない。むしろ、死の確率の方が高いだろう。
まずは、開拓村のサーラ様から力の秘密を少しでも引き出すところからだ。
知り合いの視線を避けるように隠密に里を抜ける。
走った。
涙に歪む景色。
「嫌だ! 離れたくない!」
吠えた。
木々を猿のように飛び、走り抜ける。
……いつからだろう。
あの光の奔流に魅入られていたのは。
気を引くだけのつもりが、いつも視線で追ってしまっていた。
傍に仕えているだけで満足していたら、この体たらくだ。自分が情けない。
私は、私の力で、自分の居場所を勝ち取ってやる。
「ああああああぁぁ!」
ひっそりとした森には私の慟哭だけがこだましていた。
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ドラゴンノベルス公式に最終話があります。
ファンタジーには馴染めない番外編 nov @9raso
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