甦る


「はっ……!」

 目が開いた。見える景色は見覚えのある、ヘリに乗る前の小さな島。状況は同じだった。銃を乱射する者、全く動かない者、何故かスクワットを繰り替えす者。非常にやかましい銃声で耳が痛い。

 ぼやけていた思考が輪郭を取り戻し、今までの動向が脳裏で再生される。よみがえってきたのは、地面へと頭から叩きつけられた俺。

「あ……ああ…………!」

 激突直後まで残っていた意識。真っ赤に染まった視界。そして中途半端に開きかけたパラシュートが中途半端に減速させたが故に、ひと思いに意識を絶てなかったその苦痛。

 フラッシュバックする。頭蓋骨の砕ける音とその破片が皮膚を突き破る感覚。その内側の柔らかい物がつぶれる音。そして、あり得ないほどの激痛。

「ううっ……」

 最悪の結末に猛烈な吐き気が再生され胃の底から苦い物がこみ上げてくる。滝のような冷汗が噴き出す。たまらず地面に膝をつき口を手で押さえようとしたが、それは止めることができなかった。

 胃の中全てが食道を逆流し、酷いえづき声と共にたまらず吐き出してしまう。ただ、そこに確かに吐き出したはずの吐しゃ物は存在しなかった。

 吐いて少し楽になったのと、その違和感で少し考える余裕が生まれた。口を袖でぬぐい、しびれる手足を何とか動かして地面に座り込む。

 さっき俺は、パラシュートの展開が間に合わずに地面に激突し、確実に死んだ。現在生きている時点で確実ではないのだが、あれで生きていられる人間がいるはずがない。俺が今手を動かして呼吸をしているのもどんな高度な医療技術をもってしてもまったくあり得ない。

「死に戻り……?」 

 ファンタジーまがいの一つの仮説が浮かぶ。何回死んでもとあるポイントまで時間が巻き戻り、生存できるルートを探す、そんな小説があった気がする。こんなどうでもいい記憶はいらないのだが、残っているものは残っているのかもしれない。自分に関することは全く覚えてないくせに。

 だがそれだと全く同じ状態が繰り返されるはずだ。恐らく目が覚めてから今くらいには至近距離でマシンガンを撃ち込まれたのだが……。

「来ないな……」

 俺に突然銃弾を撃ち込み、挙句の果てにヘリの座席が隣だった彼はそこにはいなかった。全く同じ状況は繰り返されないのでどうやら死に戻りではないようだが、それでも似たような酷い状況が繰り返されていることには変わりない。無人島に一人放り出され、周りは戦場、記憶はほとんどなし。味方になってくれるような人がいるわけでもない。

 もはやどうしようもないとしか言いようがないが、死ぬに値するダメージを受けたとしても生き返るという能力があるのかもしれない。猛烈な痛みと引き換えにして。

 そして先程と同様ならばそろそろ視界の中央に数字が浮かび上がるはずだ。相変わらず周りには全く同じ顔がいたり不自然に整った走り方だったりと未解決の問題は山積みであるがそれらには後で時間ができた時に考えよう。

 カウントダウンが始まり、どんどん数字が小さくなる。このままではたった数秒でまたヘリの中に飛ばされ、そしてその外に投げ出されてしまう。パラシュートの開き方は分かったので今回は地面に激突する恐れはないが、ではその後無事に降り立ったとしてどうすればいい。あの美しい処刑台の島で何も知らない俺はどうすればいいのか。

 恐怖で足がすくむ。またあんな酷い思いをするかもしれない。現実とは思えない景色と環境であるというのに、リアルとしか思えないあの苦痛。避けられるなら避けたいしもう二度とあんな思いはしたくない。それでも少し気になってしまう。この世界は何で俺はどこから来たのか。その答えはあの島にあるような気がする。

 

 世界が暗転した。

 


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バレットワールド 榛川月出里 @harukawasudaschi

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