NPCが最強を夢見てはいけないですか?
プル・メープル
ぷろろーぐ
『昔々あるところに、紅色の剣と蒼色の剣を腰に携えた勇者がいました。
彼はこの星の安らぎを脅かす魔王や、伝説と呼ばれ七竜のうちの
彼にはまた、こんな伝説もあります。
権力の横暴を繰り返した、世界三代王国のうちの一国の王をデコピンだけで瀕死状態にし、半強制的に王座を奪ったと言う。
おかげで無駄に高かった王国兵たちの給料は下げられ、国民たちに課せられた税金は下げられた。
もちろん王国兵たちは総動員で反逆した。
しかし、幾千という武装集団に囲まれても勇者は笑う。
「愚かなる魂が幾つかさばろうとも、俺は心の剣を抜くこともないだろう。心の剣は歪みやすいし壊れやすい、その代わり、己を信じているあいだはいつだって真っ直ぐだ。貴様らのように既に歪んだ剣しか使えない愚者などに向けてやるのは、この2本の剣だけで十分だ」
彼はそう言って腰の剣を抜いた。
幾千の武装兵士を倒し、幾千の一級魔導士の魔法炎弾を弾き返した。
最後の一人を倒した時、彼もまた、膝から崩れ落ちた。
彼は魔王やドラゴンを倒した時と同じ、二本の剣と、初期装備だけでこれを成し遂げたという。
そして、驚くことに、この戦いで死者は一人もいなかったという。
勇者の攻撃は全てが
これを知った王国兵たちは勇者の想いに心を打たれ、今までのような高税金制度は完全になくなり、地位によって差別が起きたりすることも滅多になくなったと言われている。
勇者も三日後に目を覚まし、王国を平和へと導いた『平和の王』として、今日まで崇められている……。』
ここまで読み終えてレンは本を閉じた。
顔を上げると既に太陽は真上に来ていたが、木陰にいるおかげで涼しい。
レンは胸の中にたまる高揚感をため息とともに吐き出し、ゆっくりと千年樹に背中をあずける。
先程まで読んでいた本はとある勇者のお話、レンのお気に入りの本だ。
「またその本読んでたの?よく飽きないわね」
声の聞こえた方向へ向いてみるとそこには赤髪の女の子が立っていた。
歳はレンと同じくらいに見える。
「リンか…、好きなものは仕方ないだろ?」
「その本、終わりの方がちょっと無理やりすぎる気がして好きになれないのよね」
リンと呼ばれた少女はさりげなくレンの隣に座る。
「俺も最後は無理矢理だとは思う、けど、俺が好きなのは文章の構成とかじゃないんだ」
「じゃあ、どこが好きなのよ」
リンはレンの方を横目で見ながら聞く。
しかし、レンは遠くに見える緑の山々から目をそらすことなく、答えた。
「彼は最強であるはずなのに、1人も殺さなかった。魔王やドラゴンは仕方ないにしても、人間は殺さなかった。人間には人間にしかわからない何かがある。想いが通じてくれると信じていたからだろ?」
レンが言い終えた瞬間、2人の頬を風が優しく撫でた。
レンは、話をしていてまた高揚感が戻ってきたのだろうか、頬がほんのり赤くなっている。リンはその横顔を優しい眼差しで見つめて小さく笑う。
「そうね、そんなふうに言われたら、私もその本好きになっちゃったかもしれないわね」
そこまで言ってリンは立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ次の街に向かいましょうか」
「ああ」
※以上は妄想です。
――――――――――――――――――――
「ぶはっ、なにこれ!超笑えるんですけど〜、妄想小説とかキモすぎww」
はい、そうです。
今までのは全てレンの自作小説です。
「しかも自分の名前主人公に付けるとかほんとにキモイんだけどww」
リンは草原の上、腹を抱えて笑いながら転がり回っている。
女子力の欠けらも無い行動、小説の中のリンとは大違いだ。
「てか、ヒロインが私の名前とか、ほんと勘弁してwwキモすぎて笑い死ぬww」
リンは女の子らしくもなく、笑いすぎて顔から3種類の液体が出ている。
詳細は伏せておこうと思う。
世界のヒロイン好きの皆さん、本当にごめんなさい。
「ていうかさ、この前も書いてたでしょ?なんだっけ?レンって名前の主人公が最強の勇者な話だっけ?」
リンは思い出しながら既に笑いを堪えている。
「なんだよ、最強になりたいって思うのがそんなに悪いのか?」
「悪いわよ」
「どこがだよ!」
レンはリンに詰め寄る。
それでもリンは微動だにせず、レンの目を真っ直ぐに見つめる。
「最強になりたいとか、今どき小学生でももっとマシな夢を考えるわ。このご時世、魔王の復活とドラゴンの最盛活動期が重なって自分の身を守るので精一杯だって言うのに、子供みたいな夢語ってないで、生きていくことに真剣になりなさい!」
レンはリンの言葉責めによって精神的ダメージ97をくらった。
「はい…」
もう頷くしかなかった。
確かに今、この世界は大変なことになっている。魔王と七竜が同時に現れるなんて滅多にないことが起こってしまったのだから。
「でも、最強になればこの最悪の状況だって俺の手で変えて……」
「それにね、レンが最強になれない大きな理由が1つあるわ」
リンは相も変わらず気の強そうな鋭い目付きでレンを見る。
「な、なんだよ…理由って……」
「それはねぇ…」
リンはレンに1歩ずつ歩み寄る。
気味が悪いくらいにやけながら、ゆっくり、ゆっくりと……。
そして、鼻と鼻が触れ合いそうな距離まで顔を近づけて言う。
「レンがNPCだからよ」
今、とてつもなく叫びたい。
俺の心が叫びたがってるんだ。
「NPCが最強を夢見ちゃいけないなんて、そんなルールどこにあるんだよぉぉぉぉ!」ってな。
NPCが最強を夢見てはいけないですか? プル・メープル @PURUMEPURU
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